ザ・スペイサイド・ウェイ

ウイスキー国の中心を歩く

スコットランドは素晴らしい長距離のウォーキングがいくつもできるところだが、 たった一つだけ数多くの有名な蒸溜所が近在するコースがある。 SMWS大使であるオラフ・メイアーが2019年7月に、 自分のハイキングブーツを取り出してこの道を散策し、 旅の友人たちとウイスキーのグラスを楽しむ。

撮影: PETER SANDGROUND

Following the tracks of the Strathspey Steam Railway

一日目:町からスペイサイドへ

この風光明媚な列車の旅は、エジンバラのウエヴァレー駅から北に向かう、私のよく知る旅程である。2007年からメンバーを定期的にインヴァネスの試飲会に案内していたからだ。その時の到着地はアヴィモアだったが、今回はそこからSMWS の同士であるジュリアン・ウイレムズとスイス人友人で、SMWSメンバーでもあるシギとユルグ・バリたちと98km(61マイル)のスペイサイドの道を歩きはじめる。 ダルウイニー蒸溜所の塔になった屋根と珍しい木製のワーム桶が視界に入ってくると、これがウイスキー国への列車からの初めて風景となる。しばらくするとアヴィモアに到着で、ペイサイドの道からボート・オブ・ガーテンまでの第1区間に出る前に、ちょうどランチ補給の時間となる。 穏やかな午後、ヒース荒野を横切り、ストラスペイ・スチーム鉄道に沿って10km(6マイル)をそぞろ歩く。この鉄道は近年愛好者たちが走らせている。ラッキーなことにブルームヒル行きの蒸気を吹き上げる列車とすれ違った。見守っておくべき光景だ。樹木を抜けるとボート・オブ・ガーテンに到着だ。ここで私たちのB&Bであるザ・ボートハウス・ゲストハウスに投宿する。ボート・オブ・ガーテンの名前はスペイ川をわたる古いフェリー乗り場に近いことからきているが、今日ではミサゴや雷鳥(早起き必須!)が有名で、これら野鳥ははロック・ガーテンRSPB 自然センターで見らる。

下: ジュリアンと一緒にAviemoreへ向かう列車の中で

Swiss SMWS members Siggi and Juerg Burri

A reminder of just how far there is still to go...

image

Arriving in Grantown

二日目:ブヨのいない至福

たっぷりのスコットランド風の朝食(長距離を歩くからカロリーは無視!)後、グランタウン・オンスペイまでの18km(11マイル)を歩き出す。素晴らしいお天気で、ジュリアンと私は長年にわたってスコットランドで暮らしたので、暑すぎないか、と滅多に出ない不平まで出た。 [不平]と言えば、今回は旅の全行程で雨が全く降らず、ブヨに悩まされることもなかった。近年で最もブヨの多い夏だと、ある宿泊先の女将から前もって聞いていたにも関わらずに、だ。注意を受けてブヨよけのネットと虫除けクリームを全員のために買い求めたが、結局全然使わないで持ち帰った。 パースとフォート・ジョージにつながる古い軍事道路を横切り、私たちはグランタウンへと歩いた。今夜宿泊のこのゲストハウスは、2003年にスペイサイドの道を初めて歩いた時と同じウイローバンクだ。オーナーは変わっていて、現在は素敵なオランダ人カップルが経営している。再び悪名高いブヨの被害にも遭わずに、戸外に座って夕食を楽しむことができた。

Cragganmore House B&B in Ballindalloch

Stepping stones mark the route

三日目:熱気を感知

今日が一番厳しい21km(13マイル)の旅程で、多くの険しい区画、農家付近の泥道、飛び石などが待ち受ける。『リュックサック・リーダーのスペイサイドの道』というガイドブック(2003年に購入)とスイスアーミーナイフ(8歳の時の叔父からのプレゼント)しか持っていない私と比べると、私のスイス人の友人たちは私には全然わからない専門道具一式を用意してやって来た。その中にはナイスミスのルールのついたアプリと距離測定のアドバンスガイドも含まれていた。 あまりに暑いので、一番険しい上り道に近づきながら、空を見上げて太陽に雲のかかるのを祈ったくらいだ。ご褒美の休憩を取り、元気回復の飲食物も摂取し、腰につけた魔法瓶からの一気飲みもした。15分くらいすると太陽が視界から隠れたので、これほどありがたかったことはない。一つだけアドバイスを思い出すとしたら、サンスクリーンは常時携帯した方がいい、例えスコットランドでも! この工程で必見なのは、短い回り道をしてトーモア蒸溜所に行くことだ。1998年のパティソン・ブラザーズの恐慌後、20世紀に初めて建てられた蒸溜所として有名だ。この日はクラガンモア・ハウスB&Bで工程を終了する。この建物はもとジョン・スミスの家族の家であった。スミスはその時代の有名人で、グレンリヴェット、マッカラン、グレンファークラスといった蒸溜所を経営し、その後バリンダロッホ不動産のサー・ジョージ・マックファーソン=グラントから土地を借用して、1869年にクラガンモア蒸溜所を建設した。クラガンモア・ハウスの部屋は過ぎ去った時代を反映していて、私たちのような疲れ果てたウォーカーを歓迎するヴィクトリア様式の支えのないバスタブが嬉しい。 再び暖かい夜を楽しむために戸外に座り、ベンリネスを見渡す素晴らしい風景とともに、[見た目には底がないのような]ウイスキーフラスコからご褒美のウイスキーをアペリティフでいただき、事前予約の3コースの夕食になる。なんてグルメなおもてなしだったことか。賞を獲得しているシェフのトニーとヘレン夫人は完璧なホストで、夕食後はラウンジでコーヒーをいただく。そして深く静かな眠りにつく前にまたウイスキーも数杯いただく。

Time to get the sunscreen out

Setting sights on the next stage from Cragganmore

Sandy McIntyre, distillery manager at Tamdhu

四日目: 急いで出発

1960年代のビーチングの予算削減の犠牲になった、スペイからクライゲラキまで使われなくなった鉄道の上を歩くのは簡単なコースになった。蒸溜所の数が増えるのも鉄道のおかげだ(ラベルに列車が描かれたクラガンモアの古いボトルを持っている人はラッキー)。タムドゥー蒸溜所ではアポをとって、マネージャーのサンディ・マッキンタイアーが蒸溜所を案内してくれる という嬉しい訪問だ。 この朝も眩い太陽の中を出発し、古いバリンダロッホ鉄道駅のそばを通るのも嬉しい。そしてスペイ川に1863年に架けられた、精巧な鉄格子ついた大きな梁のある橋をわたる。その後ブラックボート駅、また以前フェリーのすれ違っていた場所を通り過ぎて、タムドゥーに約束の2分前に到着する。 タムドゥーは1896年に創設され、現在はイアン・マックロード蒸溜所がオーナーで、シェリーの大樽での成熟に力を入れている。蒸溜所全域、桶の仕事場、倉庫を案内され、もちろんウイスキーの試飲もたくさんあった。サンディのように優秀で知識のあるホストの前で、スイスの友人たちは時間の経つのを忘れたようで、私はその後の予定をこなすために移動をせっつくことになった。顔がほんのりと紅潮するのを感じながら、お別れを告げて弾む足取りで歩き始めた。 蒸溜所から遠くない場所で古いタムドゥー鉄道駅の横を通る。サンディは蒸溜所見学者のセンターとなるようにこの駅の再開を願っている。次にキャロンという小さな村に到着し、そこで立派で新しいダルマナック蒸溜所の見渡しながら休憩をする。この蒸溜所は2013年に取り壊されたインペリアル蒸溜所の敷地跡に建てられたものだ。 それから旧ダルユーイン駅、アベラワーと森の中を歩き続ける。公式名称であるアベラワーのチャールズタウンはウォーカーズのショートブレッドの町であり、もちろん蒸溜所でも有名である。ここで再び短い休憩をアベラワー駅の隣にある、その名もマッシュ・タンというウイスキーバーとレストランでとる。屋外で地元のウイスキーを試飲し、スペイ川にかかる吊り橋を眺める。この光景はこの地方での家族旅行の楽しい思い出を蘇らせる。かつて橋の上に立った時に、フライの釣り人が河岸で、大きなサケを釣り上げるのを見た思い出だ。偶然にもこの橋の上では毎年2月11日に、フライフィッシングのシーズン開始式典が行われ、スピーチの後流れの早いスペイ川に、この橋から12年もののアベラワーが注がれることになっている。 この日の最後の区間に入ると、すぐにクライゲラキまでの鉄道区間にある唯一のトンネルの中を通ることになる。その夜は友人のミナガワ・タツヤさんの経営するハイランダー・インに宿泊する。ここには隣のクライゲラキ・ホテルにある、SMWSパートナーのザ・クエイチバーほどは大きくないものの立派なウイスキーバーがある。

A cask at Tamdhu, signed in chalk by the adventurers

Tamdhu’s station offices are set to become part of a new visitor experience

With such a wonderful and knowledgeable host such as Sandy my Swiss friends lost track of time, and it was up to me to chivvy them along if we were to make any further progress that day

オンワード&アップワード

その後、カロンという小さな村にたどり着き、2013年に取り壊されたインペリアル蒸溜所の跡地に建てられたダルムナック蒸溜所を眺めながら休憩をとることにした。 その後、森の中を進み、Dailuaine Haltを過ぎてAberlourへと向かう。正式名称はCharlestown of Aberlourといい、Walker's shortbreadや有名な蒸溜所の本拠地である。Aberlour駅の隣にある、その名も「Mash Tun」というウイスキーバー&レストランで小休憩をとった。私たちは外の席で、スペイ川に架かる素晴らしい吊り橋を眺めながら、地元のドラマを味わった。

Sound advice for those not travelling on foot

Dalmunach distillery’s cathedral-like buildings

The Highlander Inn in Craigellachie

これを見ると、この地域で家族で過ごした楽しい思い出がよみがえります。あるとき、橋の上に立っていると、川岸でフライフィッシングをしている人が大きなサーモンを釣り上げているのが見えた。偶然にも、この橋では毎年2月11日にフライフィッシングシーズンのオープニングセレモニーが行われており、いくつかの言葉が語られた後、伝統的に12年物のAberlourのボトルが流れの速いスペイ川に注がれる。

この日の最後の区間を進むと、すぐにこの鉄道路線で唯一のトンネルを通ってクレイゲラヒに向かうことになる。その夜は、親友の皆川達也さんが経営する「ハイランダー・イン」に泊まった。隣のクレイゲラヒ・ホテルの「ザ・クアイチ」にあるSMWSのパートナー・バーには及ばないが、素晴らしいウイスキー・バーがある。

Tatsuya Minagawa at the Highlander Inn

An iconic Speyside view, with Speyburn distillery tucked away in the woodland

We soon found ourselves walking through the only tunnel on this railway line to Craigellachie

Tea in Fochabers

五日目: 山々、モルツ、午後のお茶

最終日はフォチャバーズへと向かった。クライゲラキの町外れにある伝説的なフィディチサイド・インにある小さなバーで、オーナーであるジョー・ブランディは2017年に亡くなるまでの60年間、飲み物をサーブし続けた。そしてバーは2020年に再オープンした。 そのインを出て、アーンディリィ私有地のブナの森の中を登り、ベン・アイガンの路沿いにあるボート・オブリグに向かう。グレンロセス、グレン・スペイ、グレン・グラントの蒸溜所のあるロセスを横切りながら美しい風景を楽しむ。そしてモルヴェンの円錐の形をはるかにのぞみながら、モレイ・フォースを通過する。 ここで私の心を熱くしたことを共有しようと思う。フォチャバーズにあるB&B、ケイズ・ゲストハウスに予約をしようと電話をかけたところ、高齢のオーナーであるリトル夫人は、デポジットも連絡先も聞いてこなかった。ただ彼女のダイアリーに書き入れただけで、最後に一言こういった、「時間通りに着いたら、お茶を用意しておくわ」。我々は時間通りに到着し、信じられないような食事が用意されていた。それが宿泊料に含まるという信じられない宝ものだ。[古き良き時代]である、1983年の初めてのスコットランド旅行を思い出した。

A breakfast dram the next day

Glen Moray’s stillroom

My good friend Graham Coull, the then distillery manager of Glen Moray, organised a taxi to pick us up and bring us to the distillery

Almost there...

六日目: 海に向かう

翌朝の朝食はアイル・オブ・ジュラのグラスで出されたが、スペイ湾(公式な道の終点はバッキーではあるが)に向かう我々の最終日にはマッチしていた。 アヴィモアからスペイ川が海の河口に流れていくのに沿って歩いていく。スペイ湾は自分には自然な終点な気がするし、ラッキーであればバンドウイルカが見えるかもしれない。他が小石のビーチに座ってウイスキーで祝っている間に、ジュリアンは水辺まで行った。たまたまこの小石のビーチがスコットランドで一番広いビーチであった。 以前グレン・マレイ蒸溜所のマネージャーであった(2012年そこで私は研修生として[働いていた]) 、友人のグラハム・コウルは、現在アイルランドにあるディングル蒸溜所で働いているが、蒸溜所までのタクシー送迎を手配してくれた。グラハムと歓談し、タクシーでエルギンにある駅に行く前に、何杯かウイスキーを一緒に楽しんで、インヴェネス経由でエジンバラに戻った。

Spey Bay at last!

あとがき: もっとスペイサイド

現在長年忘れていたウォーキングブーツを探しながら、自分の冒険旅行を計画し始めた人たちのために、スペイサイドの道が訪れる価値のある場所である二つのおすすめを書いておく。最初はバリンダロッホからグレンリヴェット蒸溜所を経由して、トミントゥールに行くもので、2回の1800フィートの登りがある。二つめはクレイゲラキから自称[世界のウイスキーの首都]を名乗るダフタウンへの簡単なウォーキングで、スローガンは「ローマは7つの丘に構築され、ダフタウンは7つの大樽の上に築かれた」 。 今回スペイドサイドの道の全行程を歩くのは2回めだったが、シギ、ユルグ、ジュリアンと一緒だったのは楽しかった。エジンバラに戻る長時間の列車の中で、SMWS仲間で仲良しで、試飲パネル議長であるロビン・ラングのスペイサイド・ウイスキーソングの歌詞を思い出さずにはいられなかった。

「スペイ川は甘美に山から海に流れていく、魅力的で雄大な景色の中を通り抜けて。 天使があちこちにいて、それぞれの持ち分に浸かっている。はい、自分の分があるうちは万事よし」