知識

最高の味わいのすべて

私たちが味を感じたり楽しんだりする能力は様々な要因に依存している、とトム・ブルース・ガーダインは考えます。しかし、私たちが何を楽しめ、楽しめないのか、またその過程で「良い」味というものを実証できるかどうかは、常に変化し得るものです。

MAIN IMAGE: MIKE WILKINSON

“We develop our tastes and smell preferences in the womb. Then it’s about what we’re exposed to, and what our peers like. ”

Dr Morgaine Gaye

まだ飲んだことがない人のために説明すると、フェルネット・ブランカは「鉄道のタールとほうれん草」から蒸留されたと言われる強烈な苦味のあるイタリアの食後酒で、ニューヨークタイムズ紙 もかつてそう主張していました。アルゼンチン人はそれをコーラで割るのが大好きです。鍛錬されたバーテンダーは名誉の印としてストレートを飲みますが、それは、特に今日、間違いなく後天的な好みとなっています。フェルネ・ブランカのブランド大使であるニコラ・オリアナス(Nicola Olianas)氏は次のように語ってくれました。「私の家族は朝にジャムやクロワッサンなど、甘いものをたくさん食べているよ。私の祖父は朝食にサラミとチーズをよく食べていた。17歳の時にすでにウイスキーが大好きだったんだ!」

好きになることを学ぶ

私がその頃の歳で好きになったものはすべて、何かとの結びつきによるものでした。それはいかにも男らしい男が飲んでいたもので、スコッチとタバコで武装した私の胸にも実際毛が生えてくるような気になっていましたが、おそらく主な魅力というのはアルコールでした。オックスフォード大学の実験心理学者チャールズ・スペンス教授は、「事実上、すべての嗜好は後天的なものであり、それを社会にさらしたり、それがもたらすものを知ることにより、それらを好きになれるのである」と考えています。 ウイスキーにはアルコールによっていい気分になる効果がありますが、コーヒーに関しては、カフェイン誘発性があります。この2種の飲み物には両方とも苦みがあり、私たちに先天的に備わる感覚は有毒だとみなすような味だと、食品の未来学博士モルゲイン・ ゲイ博士は言います。

幼少期からの味覚形成

モルゲイン氏は、我々の古代の祖先が根やハーブを採集していたことが原因ではないかと考えています。生まれたばかりの赤ちゃんは、甘いものなら何でも喜んで舐めたり、喉を鳴らしたりする一方、苦いものや酸っぱいものは本能的に拒絶します。すでにその以前に、私たちの味覚は、母親が食べたり飲んだりするものの影響を受けながら、形成されているのです。「私たちは母親の子宮の中で味や香りの好みを発達させている。」とモルゲイン氏は言います。「それはその後、私たちがさらされているもの、仲間が何を好きかに影響されます。」コーヒーがかっこいいと見なされる文化の中で暮らしている場合は、コーヒーを飲む習慣を持つ可能性は高くなり、ウイスキーにも同じことが言えます。もしスコッチウイスキーがあなたにとって文化的アイデンティティのひとつであるならば、それを好きになりたいと思う傾向は強まるでしょう。 コーヒーでは、砂糖、ミルク、クリームのダブルエスプレッソへの道のりはよく知られています。スコッチでは、打撃を和らげるための多くのミックスが存在します。あなたがストレートで飲む義務は全くありませんが、反動的なおじさんたちが何を言うかはわかりません。しかし、アメリカのワインの巨匠であるティム・ハンニは次のように指摘しています。「スコッチを味わってもアルコールによる焦げの風味や苦みを感じられない人がいる。そんなようでは本当に味わっているとは言えない。」

“There are people who taste Scotch and don’t get that burn from the alcohol or that bitterness, so there’s nothing to acquire.”

Tim Hanni

“Virtually all tastes are acquired, in that we learn to like them through exposure, and learning about the consequences.”

Professor Charles Spence

“Research has shown that women as a whole are slightly more sensitive to flavour than men, but the difference is so marginal that it doesn’t explain the lower levels of whisky consumption.”

Dr Frances Jack

三大変化要素

自身の『知覚プロジェクト』の一環で、味覚について深く研究したことのあるティムは、次のように言っています。「人間の知覚は3つの主要な変化要素に左右される遺伝的な感覚生理学から始まる。」それは言い換えると、舌の味蕾が何個あるのか、嗅覚がどれだけ正確に遺伝されるのか、ということです。私たちは鼻を通じて味を感じるので、2点目は非常に重要です。嗅覚が機能しないときは、玉ねぎのみじん切りとリンゴのみじん切りの区別さえもできません。 次の変化要素は神経で、私たちの味覚受容体からの情報を伝達します。ティムの説明によると、それは後天的に変えられるものだそうです。「苦みが感知されると、ドーパミンと『気持ちいい』神経伝達物質が脳に送られます。」 3つ目の変化要素は心理で、これには上記でも触れた文化的影響やピアプレッシャーが含まれています。そのため、同じものを味わっても、ある人は何も感じないのに、別のもう一人は濃厚で鮮明な味を感じ痛みを伴うほどであるなど、味覚の差にそれほどの幅が出るということが起こるのです。

良い味と悪い味

これはチャールズ・スペンスの知覚と一致しており、彼は次のように述べています。「大脳皮質の半分以上は私たちが見るものに与えられていますが、私たちが嗅いだり、味わう割合は1パーセント未満であり、私たちの味覚が聴覚や視覚の世界よりもはるかに異なる世界に住んでいるという認識につながる。」 このことが、私たちが自分の味覚に自信を持てない理由を説明する助けになるのではないかと彼は考えている。「私たちは皆同じ味だと思っていますが、そうではありません。」 さらに問題を複雑にしているのは、味の美的な意味です。「これは非常に問題のあることです」とチャールズ氏は言う。「人々が何を意味しているのか、彼らが何を意味しているのかを理解しているのか、必ずしも明確ではありません。何年もの間、甘口の白ワインが好きだと告白した人は、ワイン業界では「不味い」とみなされてきました。」ティム・ハンニ氏は、そのような俗物的な態度に対して謝罪すべきだと考えています。彼の見解では、このような人々は、大音量の音楽や肌がかゆくなるものに敏感なのと同じように、単に味に敏感なだけなのだという。

“Some people crave sensation and thrill. It’s why some like rollercoasters and others don’t.”
DR MORGAINE GAYE

経験を積む意欲

スコッチには、最も優しいグレーンウイスキーから、まるで毛むくじゃらのピートモンスターまで、幅広いフレーバーがあります。初心者の一部は、いきなり難解なものに飛びつきたがるものです。「感動とスリルを渇望する人もいる」とモルゲイン・ゲイ氏は言っています。「それはジェットコースターが好きな人もいれば、そうでない人もいる理由です。」 スコッチウイスキー研究所の感覚科学者フランシス・ジャック博士が以下で指摘しているように、それは私たちの経験を積む意欲にもつながっています。「新しいものを試してみることに非常に寛容な人もいれば、『これは好きじゃない、試すつもりはない』と言う人もいます。それは味や香りに対する個人的な感受性に依ります。」

これはウイスキーとジェンダーにおける厄介な問題にも通じています。「研究では、全体として女性は男性よりもわずかに風味に敏感であることが結果が出ていますが、その差は非常にわずかであり、ウィスキーの消費量のレベルの低さを説明するには至りません。」、そして「その他の香りが重要な要素である飲食物にもジェンダーによる好みの違いは見られません。」とフランシス氏は語ります。あるいは、このような条件付けとウイスキーが「男性の飲み物」として発展してきたことには関係があるのかもしれません。難解な味を制覇するには、根気が必要です。ある意味、男性は、「これには飲み価値があるはずだ」という考えが執着心を起こし、飲みたがっているのかもしれません。

ブルキー、ブラウン、ボーイング?

では、結論として、最大の障壁は味ではなく、心の重荷であるという話をしたいと思います。 「ウイスキーのどこが嫌いですか?」モルゲイン氏は、あるとき、女性にグループに尋ねました。「単に、男性的すぎる。」と彼女たちは答えました。そして、なぜだか尋ねると、「それは茶色いし、つまらない。いつもジム・ビームやジョニー・ウォーカーのような男の名前が付いている。」 でも例えば、ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティは違います。そして、胸に毛が生えてきそうだという青年の妄想を乗り越える時がついに来たのです。