ザ・ナレッジ

アメリカン・シングルモルト

リー・“コンナス”・コナーは、最近のアメリカン・シングルモルトに関する規制について掘り下げ、その変化が生産者と消費者の双方にどのような影響を及ぼしているかを探る。

PICTURED: Westland warehouse

規制に揺れるシングルモルトの舞台裏

どんな監督機関であれ、そこで働く人々の人生は楽ではない。その性質上、彼らの仕事が語られるのは、たいてい苦情や不満の物語を通じてである。一部のスコットランドの蒸溜所は、過度な規制によってものづくりの自由が妨げられていると主張しており、スコッチウイスキー協会のような大規模な団体が悪者扱いされるのも無理はない。しかし、もしかすると―すべてがそこまで悪いわけではないのかもしれない。

というのも、1988年の初の本格的なスコッチウイスキー法、そして2009年の新たな規制の施行以降、スコッチはこれまでで最も成功した成長期を迎えている、と主張する人もいる。そして、それは決して偶然ではない、というのだ。

擁護・代表・保護・情報発信・持続可能性といった重要な役割を担う中央組織の存在が、近年私たちが享受してきたこの活況に一役買っていることは間違いない。その影響は大きく、海の向こうのアメリカでも、シングルモルトというカテゴリーを発展させるための土台づくりとして、この考え方が受け入れられつつある。

ルーツとその背景を学ぶ

現在のアメリカン・シングルモルト・ウイスキー委員会の起源は、2010年にさかのぼる。シアトルで、志を同じくする少人数のシングルモルト・ウイスキーづくりの開拓者たちが、ウエストランド蒸溜所を立ち上げたのが始まりだ。当然ながら、ウイスキーが完成すれば、それを販売しなければならない。現在SMWSアメリカのディレクターを務めるスティーヴ・ホーリーは、当時彼らが直面したいくつものハードルを振り返る。

彼はこう語る。 「アメリカン・シングルモルト・ウイスキーというカテゴリー自体が正式に存在しなかったため、自分たちが提案しようとしていることを人々に説明するのは非常に難しかった。小売業者もどう扱っていいか分からず、困惑していました。すぐに気づいたのは、何らかの正式な分類がなければ、私たちのやりたいことを実現するのはもっと難しくなるということだった。 そこで、シングルモルトを造っている仲間たち全員に連絡を取りました。そして最終的に、2016年にシカゴで開いた会議には9人の造り手が集まったのです。」

ウェストランドの熟成中ウイスキーを樽から試飲

規制チーム、出動だ!

もし世の中がもっと混沌としていたなら、あのシカゴの夜は細部や違いをめぐる長く骨の折れる死闘となり、勝者がすべてを支配する絶対権力を手にするような場面だったかもしれない。しかし実際は、比較的すんなりと物事が進んだ。

スティーヴは説明する。 「私たちは皆、同じ課題に取り組んだ。アメリカン・シングルモルトの定義を正式にまとめ、それを基にTTB(アルコール・タバコ課税貿易局)に申請するためだ。丸一晩かけるつもりだったが、実際には45分ほどで終わった。」何を定義すべきかはかなり明確だった。もちろん議論すべき点や、既存のスコッチ規制からのいくつかの逸脱もあったが、大部分は合意が得られた。

こうして、アメリカン・シングルモルト・ウイスキー委員会が誕生した。当初はウエストランド蒸溜所が資金を提供する任意団体であったが、スティーヴが非営利組織として設立することに成功した。元々の9人のメンバーが理事会を構成し、彼自身は「事実上の」会長に任命されたと冗談めかして語る。 現在もなお、100人以上の会員を誇る組織の舵取り役を務めている。

規制を正式に登録させるまでには、約9年にわたる働きかけやロビー活動、TTBへの申請が必要だった。 最終的な決定は2024年12月に下され、2025年1月に正式に施行された。

カッパーワークス・ディスティリング・カンパニーのジェフ・カノフ氏

参加こそ繁栄への道

ウイスキー造りのほとんどは時間がかかるものであり、規制の影響も例外ではない。 初期の兆候は良好だが、カッパーワークス・ディスティリング・カンパニーの副社長であり共同オーナーのジェフ・カノフは、生産者の視点から今回の規制の詳細と影響について次のように語る。「これまでのところ、予期せぬ問題には直面していません。定義は明確で、私たちの実務とも一致しており、創造性を損なうことなく適切な枠組みを提供してくれています。もちろん、すべての規則に全員が賛同するわけではありません。それは常に起こりうることですが、私たちはこの規制が誠実さと革新のバランスをうまく取っていると考えています。」

「特にウイスキー愛好家の間で、お客様の反応に変化が見られます。さらに、正式に承認された基準があることで、アメリカン・シングルモルト・ウイスキーとは何か、そして同じくらい大切なこととして、何がアメリカン・シングルモルト・ウイスキーではないのかも伝えやすくなっています。」

以前は、製造工程や「こうあってほしい」という定義について説明するのに多くの時間を費やしていました。 でも今はその部分を飛ばして、自分たちのウイスキーがそのカテゴリーにどう位置づけられるかという話に、より多くの時間を割くことができます。 また、好奇心旺盛なウイスキー愛好家にとって新たな発見の場を生み出した。いまや正式な定義ができたことで、アメリカン・シングルモルトを積極的に探し、興味を持って質問してくれる消費者が増えてきました。この規定があることで、私たちもよりよい形で情報を提供し、新たなファンを育てていくための土台が整ったのです。

さらにジェフは、この規制が将来に向けた確かな土台を築いたと考えている。「私たちはアメリカン・シングルモルト・ウイスキー委員会に関わっていることからも分かるように、この規制を全面的に支持しています。カテゴリーを守り、意義あるかたちで認知を高めていくために、こうした基盤はまさに必要なものでした。とはいえ、ルールが確定すればカテゴリーが一夜にして爆発的に広がる―そんなふうに考えていた時期が、蒸溜所の間では(私たちも多少そうでしたが)あったと思います。」

実のところ、私たちはまだ始まったばかりです。これからの10年は、消費者の知識と理解を着実に育てていく期間になるでしょう。ウイスキーというのは、昔も今も、そしてこれからも“長期戦”なのです。」

影響に関する所見

さて、「それで実際にはどういうことだ?」と、好奇心いっぱいの声が聞こえてきそうだ。

アメリカン・シングルモルト・ウイスキーは、以下の要件を満たさなければならない。

  • 100%モルト大麦を使用すること
  • 同一の蒸溜所で全工程を蒸溜すること
  • 米国国内で糖化・蒸溜・熟成が行われていること
  • 熟成には最大容量700リットルの樽を使用すること
  • 蒸溜時のアルコール度数は最大80%ABVであること
  • 樽詰め時のアルコール度数は62.5%ABVを超えないこと
  • ボトリング時のアルコール度数は最低40%ABVであること
  • カラメル着色を使用する場合は、その旨をラベルに明記すること

ご覧のとおり、これらのルールには世界各国の規制と多くの共通点がある。しかし重要なのは、独自性を発揮できる余白があり、アメリカン・シングルモルトならではの個性を形にする機会があるという点だ。

SMWSの取り組み

SMWSでは、これまで「シングルモルト・アメリカン・ウイスキー」と表記していたボトルを、今後は「アメリカン・シングルモルト・ウイスキー」と改める。そしてもちろん、新たに定められた規定にすべて準拠しなければならない。これからも米国のパートナーたちと協力しながら、会員の皆様に唯一無二の体験をお届けできることを楽しみにしています!

アメリカン・シングルモルトに関する規制の詳細については、以下のリンクからご覧いただけます。

https://public-inspection.federalregister.gov/2024-29938.pdf

PICTURED: Copperworks casks resting