蒸溜所と醸造所のプロフィール
ブレア・アソールと ウェステッド・ディグリーズ
ビールをチェイサーに飲むウイスキーに勝るものはない。では、蒸溜所訪問ついでに、隣接の醸造所に横道してみてはどうだろうか。スコットランド中で蒸溜所も醸造所も共に増える中、組み合わせのオプションには事欠かない。リチャード・ゴスランがブレア・アソールの蒸溜所と、隣接のウェステッド・ディグリーズ醸造所を訪問して、パースシャーの蒸溜の中心地のハーフ&ハーフコンボをラインアップした。
写真: PETER SANDGROUND
初めにウイスキー
秋のピトロッホリーは、小さな町が、鮮やかに紅葉する森林、湖畔の眺望所や閑静な林道に囲まれて、実に素晴らしい。町のブレア・アソール蒸溜所が、コロナウィルス危機前には年間10万人のウイスキーファンや観光客が訪れる、スコットランド有数の蒸溜所であり、所有者のディアジオ社にとっての最大の見学者数のサイトだと聞いても、何ら驚きではありません。 私が訪問したのは、過去18か月の行動規制が解除され、観光客が徐々に戻りつつある時期でしたが、サイトにそれほど緊張した雰囲気はありませんでした。迎えてくれたのは、ブレア・アソールの蒸溜所長でSMWSの熱烈な会員でもあるデレク・ユニーさんです。蒸溜所の歴史について語ってくれました。

写真: Derek Younie, distillery manager at Blair Athol

ABOVE: Blair Athol’s signange after the creeping ivy’s annual trim
「蒸溜所の歴史は1798年まで遡りますので、スコットランドで最も由緒ある蒸溜所の一つです。かつては農場で、当初の農場の建物が今も一部現役です。元々この場所は、主要水源のAllt Dour(カワウソの小川)から、オルダワーとして知られていました」 施設中央の広場も感動的で、製造棟の表は蔦(アメリカ蔦)が生い茂っていて、毎年の刈込の前にはブレア・アソールの名前がほとんど見えないほどになります。季節が進むと深い赤色に染まり、それから冬にかけて色が褪せていきます。デレクも維持が大変だと言いますが、蔦の効果には目を見張るものがあります。デレクは、ピトロッホリーにありながらなぜ蒸溜所のブレア・アソールのAtholにはLが1個しかないか(訳注:ピトロッホリーの町内にあるBlair Athollは地名も、名所の城もAthollとLが二つだが、蒸溜所のみAtholとLが一つ)その謎を解き明かしてくれました。
「蒸留所のオーナーは、Blair Atholという名前に変更することを決めたが、最後の2番目のLは残した。これは何よりも他の土地所有者を怒らせるためだった。」
「言い伝えによると、蒸溜所の所有者と、すぐ近くのBlair Athollが折り合いが悪かったとのことです。そこで、蒸溜所のオーナーは最後から2番目のLは残してBlair Atholに名称を変えることにしたそうです。何よりも、相手方をもっと怒らせるためでしょうね。それ以降そのスペルになったそうです」
蒸溜能力は純アルコールで年間280万リットル(LPA)で、現在ではブレア・アソールの製造のほとんど(デレクによれば99.7%)が、ブレンデッドウイスキーの「ベル」として使用されています。ベルは、ウイスキーを初めて飲む人たちにも馴染まれてきたブランドで、国際的にも広く知られています。
「とりわけ、グリストと水の割合が極めて重要です。グリストの澱粉から可能な限り糖を抽出して、曇った糖液を作り、ブレア・アソールのナッツ風味の特徴を引き出すためです」


46時間から120時間の間の、短い発酵と長い発酵を織り交ぜることでナッツ風味の特徴が増幅されます。蒸溜所では、ロックダウンと、見学者の減少を機に、屋根から蒸溜器2基とともに、新規のウォッシュコンデンサーを増設しました。比較的背が低い蒸溜器とラインアームの緩い傾きの中で、銅との接触を最小化し、還流(リフラックス)を避ける必要があります。それがまた当蒸溜所のスパイシーでナッツ風味の特徴に貢献しているのです。
Derek Younie behind the reclaimed mash tun from Clynelish, now pride of place in Blair Athol’s visitor centre

ベル向けに供給するウイスキーはバーボン樽で熟成させています。一方、ブレア・アソールでは年間10万ボトルを蒸溜所のブランドでシングルモルトとして提供していて、こちらは主にオロロソシェリー樽で熟成させています。ソサエティの会員はシングルカスクの良さをご存知ですので、当蒸溜所を訪れた際には、12年物のFlora & Faunaを手始めに、シェリー樽に次いでバーボン樽で熟成させた当蒸溜所エクスクルーシブなウイスキー、リフィル赤ワインカスクから自分で樽出しするウイスキー、シェリー樽で熟成させた23年物のBlair Atholまで、好みのウイスキーをお買い求め頂けます。 それに、ウイスキーを楽しむのに、改造した糖化槽(マッシュタン)に勝るところがあるでしょうか。当蒸溜所では、クライヌリッシュ蒸溜所から回収した光沢のある銅の構造物を切り開いて、最高のウイスキーバーに改造しています。 デレクと乾杯し、購入したウイスキーをバッグに入れて、今度はチェイサーのビール探しに向かいます。

次にビール
ピトロッホリーの町から数マイル離れたBlair Atholl(こちらはLが二つ)は、ケアンゴームズ国立公園の最南端部の小さな村です。この村で際立つのは、ザ・キーパーズ・オブ・ザ・クエイヒ・ウイスキー・ソサエティの新会員の入会式の開催場所で知られる、白い荒塗りのブレア城です。しかし私が向かうのは、鉄道に隣接した金属製の工場、ウェステッド・ディグリーズ醸造所です。 迎えてくれたのは創業者のコナル・ローさんです。元は体育の教師でしたが、醸造の道を追求するために教師を辞めた方です。 コナルさんが話すには、「両親が共に教師なので、(教師を辞めたときは)結構な話し合いになりました。最初は趣味で始めたのが高じて、ほとんど取りつかれたしまって。作ったビールをパーティーに持参したり、人に贈ったりしているうちに、うわさが広まって、ついには本業にしようと思い立ちました。それがウェステッド・ディグリーズ(無駄になった学位)という社名の由来ですが、それでも両親は駐車スペース2台分の車庫で起業するのを許してくれました。
「趣味で始めたことが夢中になってしまい、パーティーに自分の樽を持って行ったり、ボトルをプレゼントしたりしているうちに噂が広まり、フルタイムでやることになりました」。
Conall Low
ウイスキー党にとっては、小さな醸造所に入って、製造工程のウイスキーとの共通点と分岐点を辿り、同時にウイスキーとは違う用語の理解に努めるのは結構な刺激です。ウェステッド・ディグリーズの醸造ポット数は6基で、ダブルバッチとシングルバッチを各2ロット醸造できます。糖化槽の機能は蒸溜所とほとんど同じですが、フレークド のオーツや小麦など他のグレーン を加えることが可能です。ウェステッド・ディグリーズでは、超ペール大麦麦芽をすべてのベースにしています。麦汁をケトル(煮沸窯)に移して煮沸し、ホップを加えます。発酵の準備が整うと、麦汁は冷却器で温度を下げ、「ユニタンク」に移します。ここで発酵と炭酸化を同じ容器で行うことができます。最後にビールを缶や樽の他、熟成のためにウイスキー樽にボトル詰めします。

ウェステッド・ディグリーズは探求の精神に満ちていて、SMWSと共通の気風です。主力商品はKveikと冠したセッションIPA(訳注:通常アルコール度4%以下のやや低アルコール度のIPA)です。商品名は、フルーティーで柑橘系の特徴を引き出すノルウェーの短期発酵イーストに由来しています。しかしそれ以外の商品は一回限りのもので、それが、コナルさんに探求と実験の機会をもたらしています。 「要は、毎回同じものを作って飽きてしまうことを避けたいのです」とコナルさんは言います。「規模の小ささは利点でもあります。お客様は常に新しいものを求めています。地元のビニールハウスで育てた手摘みのスコットランドのホップを使ったり、AberfeldyのGlen Lyon Coffee Roastersから仕入れたコーヒーを使ったビールを製造したりしています。我々に寄せられる関心は「次は何だろう」ということでして、それはある意味、ソサエティのシングルカスクのボトルと共通しています。飲んでしまったら、もう同じものは本当にないのですから」 次々と新しい試みに挑戦を続けた結果として、醸造所で金曜日と土曜日に催されるTap Roomが人気になっています。お客はそこで、製造者に会い、醸造所から直接供給されたビールを購入できる他、ウェステッド・ディグリーズの自社ビールとサイダーに加え、他社の紹介ビールを11種類を限度に試飲できます。この日は地元のパン屋がピザを焼き、hauf’n’hauf用のSMWSのウイスキーも何本か棚に並んでいます。 「大がかりでも豪華でもないですが、いいビールといいピザの二つを提供して、お客様に、ある物を試して買っていただきたいと思っています。ソサエティがメンバー・ルームでされていることと少し似ていますね。席について、ビールを飲み、ウイスキーを飲み、おつまみを食べ、景色に浸り、実際に会話をお楽しみいただけます」とコナルさんは語ります。 これ以上何を望みますか?