ヴォルツから

シェリー樽の 巨匠たち

WORDS: RICHARD GOSLAN

2013年10月のUnfiltered誌第10号の特集で、2013年に南スペインのシェリー酒三角地帯訪問を終えたリチャード・ゴスランが、当時ヘレスの樽を使用していた3人の樽マスターと再会し、スコッチウイスキーとシェリー酒が織りなす甘美なハーモニーを深掘りしました。

Billy Walker

「シェリー・ウイスキー」のラベルが堂々とした独自のスタイルになるほど、シェリー樽はフルーツケーキ、トフィー、チョコレート、ナッツなどのはっきりした特性をウイスキーにもたらしています。

例えばマッカランのような蒸溜所は、商品レンジ全域で専らシェリー樽を使用しています。他の蒸溜所では、特別限定品で提供します。いくつか挙げれば、グレンモーレンジ フィノシェリーウッドフィニッシュ、タリスカーアモロソやラフロイグ PX がその例です。 シェリー樽の使用については、伝統と実験の両方の要素があるわけです。 例えばベンリアックのブレンダー長ビリー・ウォーカーは、シェリー樽での熟成の伝統を守り続けたグレンドロナック蒸溜所をベンリアックが買収した際に、この伝統を継承しました。

「ウイスキーの伝統的に豊かな色合いからも、ペドロ・ヒメネス(PX)のシェリー樽がウイスキーに大きく寄与していることが明らかでした」とビリーは証言します。「ですから蒸溜所を引き継いで、まず、バーボン樽に収められていたウイスキーを、適切なバランスのPXとオロロソのシェリー樽に詰め替えるプロセスに取り掛かりました」 ビリーによれば、重いPXシェリー酒の樽の方がウイスキーにより甘美で芳醇な仕上がりをもたらすそうです。ビリーはより軽いフィノシェリー酒や他の酒樽も試したそうですが、求める「伝統的な」特性は、PXとオロロソのシェリー樽を組み合わせて得られるものだと言います。

「シェリー酒が前面に出過ぎてウイスキーを変容させてはだめですから。シェリー酒は常にバックコーラスにいるべきで、決してリードボーカルになってはいけません。」

IAN MACMILLAN

Ian McMillan

マッカランとハイランドパークの両蒸溜所は、専ら辛口のオロロソのシェリー樽を使用して、ウイスキーに琥珀色と、スパイスが効いたドライフルーツの香りを与えています。とはいえ、エドリントンの樽材マスターのスチュアート・マクファーソンは、樽の中に入っていたシェリー酒よりも樽自体がより重要な要素だと言います。エドリントンでは、スペインとアメリカからオーク材を調達し、ヘレスで樽を製造しています。「仕上がりの特質や芳香の大体60%は樽材から来ています」とスチュアートは言います。

「ヨーロッパのオーク材の樽からは、バニリン、オイゲノールやタンニンを含めて抽出度合が高く、甘い木やスパイスのような特性をもたらします。アメリカ産のオーク材を使用した樽からは、オークラクトンの抽出度合が高く、ココナッツや青果の香りを高めます。オロロソシェリー樽とマッカランのウイスキーは相性がいいようです。かつてはオロロソシェリー酒を樽でスコットランドに輸入していたこととも関係があるかもしれません。フィノシェリー酒ではそのようなことは考えられません。フィノシェリー酒を覆うフロール幕が輸送中に拡散される可能性があると聞いていますから」 バーンスチュアートグループがブナハーブン蒸溜所を買収したことで、バーンスチュアートのブレンダー長イアン・マクミランはオロロソ樽で12年間熟成しているウイスキーも引き継ぎました。イアンが行った改革は冷却濾過プロセスをやめることで、これによってシェリー酒のフレーバーや影響がもっと顕著に最終製品に残るようになったと彼は証言します。 フィノ、アモンティリャード、マンサニージャやPXなど多種のシェリー酒も試した結果、オロロソがバランス的にベストだとイアンは言います。 「オロロソは甘すぎないミディアムのシェリー酒で、いい濃厚なフレーバーがあり、バランスもいいです。シェリー酒が前面に出過ぎてウイスキーを変容させてはだめですから。シェリー酒は常にバックコーラスにいるべきで、決してリードボーカルになってはいけません」 イアンは定期的にヘレスを訪れ、ブナハーブン用の樽の調達のため複数のシェリー業者と取引します。かつてはシェリー樽がもっと手に入りやすかったものの、その後はウイスキー市場向けのシェリー樽需要が増える一方、シェリー酒の販売は減少したと彼は言います。このため蒸溜所は樽を特注し、シェリー業者に樽に2-3年シェリー酒を貯蔵させてから樽をスコットランドに持ち込むプロセスを開始しました。 例えばエドリントンは、現在へレスの3つの協同組合に樽を特注していて、その半分以上はゴンサレス・ビアス社の巨大なLas Copas貯蔵庫でシェリー酒の熟成に使用されます。 グレンドロナックでは、蒸溜所と長い取引関係にあったシェリー業者をビリー・ウォーカーが突き止めました。

Stuart MacPherson, third from left, with the team at Macallan

「オロロソシェリーの樽は、マッカランのスピリッツと相性がいいようです。また、以前はオロロソを樽に入れてスコットランドに輸送していたのかもしれませんが、フィノシェリーではそのようなことはないでしょう。私の理解では、フィノの上部にあるフローリングの層が輸送中に乱れてしまったのではないかと思います。」

STUART MACPHERSON

「シェリー業者が誰に販売していたか我々も知っていましたので、その業者と交渉し、先方も喜んでグレンドロナックへの供給再開に応じてくれました。我々はこのシェリー業者と宗教的なほど誠実に取引していますので、他のどこからの樽も使用しません」とビリーは語ります。 グレンドロナックが使用する新しい樽は、まず軽くトーストしてから、新しい樽材からのタンニンを抽出するために1年間シェリー酒を充填します。そのシェリー酒を取り出して、別のシェリー酒を充填して更に2年間寝かせます。多分最初のシェリー酒は酢として仕上げられるでしょう。 シェリー樽を使う蒸溜所にとって樽代は大きな負担です。バーボンの樽が100ポンド以下なのに対して、ヘレスのシェリー業者の酒樽は約700ポンドです。しかし、シェリー酒を吸った樽材がウイスキーにもたらす影響を考えれば、避けられない投資だと樽マスターたちは口を揃えます。 ビリー・ウォーカーは言います。「この路線を辿り始めたときからお金がかかることはわかっていました。しかしそれが、我々の追及する品質プロファイルの実現に極めて大きく寄与するのです。 最後に得られるものがあまりに大きいから、高値でも樽を仕入れるのです。シェリーを長期熟成した樽に注目する蒸溜所がそれほど多いわけではなく、過密な領域でない点も、我々には魅力です。」。

*役職と情報は2013年執筆当時のもの

Gonzalez Byass sherry casks racked in Jerez

「シェリー業者が誰に販売していたか我々も知っていましたので、その業者と交渉し、先方も喜んでグレンドロナックへの供給再開に応じてくれました。我々はこのシェリー業者と宗教的なほど誠実に取引していますので、他のどこからの樽も使用しません」

BILLY WALKER