ウイスキーの歴史:熟成

樽の問題

記事: GAVIN D. SMITH

ご存知の通り、木がウイスキーの個性に与える影響は計り知れないものがあります。歴史的に見ると熟成に使われる木材の種類や取り扱いは大きく変わり、それに伴ってウイスキーの味も変化してきました。

スコッチウイスキーは伝統的にシェリーやポート、マデラなどの酒精強化ワインに使われた樽を再利用してきました。主な理由としては安価で手に入れやすかったことが挙げられます。

18-19世紀のイギリスでは酒精強化ワインが大変ポピュラーで、オークの樽に入った状態で輸入され、グラスゴーやエティンバラ、ブリストルといった港で詰め替えされていました。

ウイスキーの生産者は酒精強化ワインの樽がウイスキーの入れ物としてちょうどよいだけでなく、スピリッツの味わいをまろやかにする効果があり、実際よりも長い年月熟成させたかのような仕上がりになることを発見しました。

このようにして19世紀後半に発展したウイスキー業界は酒精強化ワイン、特にシェリーの樽を重用するようになります。樽の原料にはアメリカのオークが使われました。 1890年代になってスコッチの需要が高まり、シェリー酒の輸入に使われる樽だけではまかないきれなくなると、ウイスキー生産者たちは自ら樽を作りシェリー酒で香り付けをするようになります。このような動きの先駆者はグラスゴーにいたウィリアム・ローリーで、彼はバルト海のクライペダから輸入したヨーロッパのオークも使っていました。

European oak – or Quercus roburは、比較的多孔質で成長が遅いため、このオークで造られた樽で熟成されたスピリッツには、スパイシーなドライフルーツやペッパー、さらには香ばしい風味が加わります。

バーボンの台頭

シェリー樽を使ってウイスキーを熟成させる方法はスコッチウイスキーのスタイルとして確立されていきました。ヨーロッパのオークは比較的多孔質でゆっくり育ち、中のスピリッツにスパイシーなドライフルーツやペッパーなどの香りをつけます。 時を経てイギリスのシェリーブームにも陰りがでて、使える樽の数が減ってきました。そこへ都合よく1935年にアメリカ連邦酒類管理法が制定されます。 この法律によってストレートのバーボン・ウイスキーやライ・ウイスキーは新しい樽で、より安価な「アメリカン・ウイスキー」はリフィルの樽で熟成させることが定められたのです。 この法律は木材業者と樽の製造組合による圧力を受けたものでしたが、それに先立つ経緯として、バーボンの生産者はボトリングする前にウイスキーをケンタッキー州からアメリカオーク樽に入れてミシシッピ河を運んでいました。

European oak: Quercus robur

Refill casks at Speyside Cooperage

輸送にかかる費用は比較的高く、ケンタッキー州はオークが豊富だったため、わざわざ樽を蒸溜所まで戻すことは敬遠されました。そこで伝統的なバーボン・ウイスキーは、新しい樽で熟成されていたのです。

ヨーロッパのオークと違い、アメリカのオークは比較的密度が高く、木材がスピリッツに与える影響が少ないと考えられています。新しい樽を焦がす工程は1826年に初めて記録されています。焦がすことによって甘いバニラやココナッツのような香りが引き出されるようになりました。

The Gonzalez Byass sherry cask bodega in Jerez, Spain

スコッチウイスキーについては、ウイスキー界のレジェンド、チャールズ・マクリーンがこのように述べています。 「ウイスキーのフレーバーに影響を与えるのは木の種類だ。ファーストフィルを除いて、その樽に元々何が入っていたかはそこまで影響がない。よく言われるようなバニラやココナツの香りは木材からくるものだ」 マクリーンはクレイゲラキ蒸溜所の樽職人による、「最初にバーボン樽を使ったのは1946年だった」という証言を紹介しています。ビクトリア朝のウイスキーブームでシェリー樽が重用されたように、戦後のスコッチウイスキーブームは比較的入手しやすいバーボン樽によって支えられていたのです。

Speyside Cooperage

シェリー樽不足

スペイン政府が1981年にシェリー酒の大量輸出を禁じると、使用できるシェリー樽は更に少なくなりました。今日ではシェリー樽を使いたいウイスキー生産者は熟成年数を指定した上で樽をスペインに注文するか、自分たちで作っています。

もちろん熟成の方法はウイスキーの味を規定するさまざまな要素の一つに過ぎません。 戦後のウイスキー業界はより効率的に、大量にウイスキーを生産することに注力してきました。 例えば新しい種類の酵母、糖化を早める技術、より短い発酵時間、素早い蒸溜、カットポイントの拡大、直火ではなく蒸気で温めるスチルなどです。 同じウイスキーでもこれだけの変化が「当時」と「今」の間にあると考えるのは非常に興味深いことです。