DISTILLERY VISIT

断固たる信念

アードナムルッカン蒸溜所はスコットランドの最西部に位置する半島の端の人里離れた所にあり、その自然環境が蒸溜酒製造のための燃料と風味付けの両方に非常に大きな役割を果たしているとリチャード・ゴスラン(Richard Goslan )は語ります。

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1840年代に最初のブレンデッド・スコッチ・ウイスキーを製造したと言われる「ウイスキー・ブレンディングの創始者」アンドリュー・アッシャーにまで遡る直接の血のつながりがあれば、同じ業界に惹かれてしまうのも不思議ではないと言えるでしょう。

アレックス・ブルースは彼の家系からウイスキー造りのDNAを受け継いでいるかもしれませんが、彼の親戚は自分のブレンドに一貫性を持たせることにやる気を注いでいたのに対し、アデルフィ社のマネージング・ディレクターであるアレックスはシングルカスクのボトリングに多種多様性を追求することを信念としていました。しかし、アデルフィ社の蒸溜所がアードナムルッカンで発展したことで、アレックスは彼の血統が一貫性という概念に新たな見通しを与えていることに気が付きました。 「アンドリュー・アッシャー1世は私の4世代前の曾祖父で、彼はブランド化されたブレンデッド・スコッチ・ウイスキーの先駆者と言われている。」「それは、トニックと混ぜたアクアヴィテとようなものからウイスキーを造り、スコットランド以外の国に輸出できるラベル付きの製品にするということだった。彼のスローガンは「一貫性なしにブランドは作れない」というものだった。一貫性を持つことに一番苦労しているインディペンデント・ボトリング・カンパニーに入るというのはちょっと変かもしれないし、それはたぶん実際の販売において求められることとは真逆のことだ。しかし、「品質」とは一貫性であり、その基準を維持することであると考えれば、それは私のウイスキー業界でのキャリアにおいても、確かに今アードナムルッカンで行っていることにおいても、私にとって非常に大切な信念だった。」

Ardnamurchan distillery is tucked away in Glenbeg near the most westerly point of the Scottish mainland

半島へ

アードナムルッカンはスコットランド本土の一部なのかもしれませんが、その最西端にあるために、半島は他の島と同じくらい離れた場所にあるように感じられます。エディンバラまたはグラスゴーからの旅は、コランでの短いフェリー乗り継ぎや単線道路の交渉を含み、地図に載らないような場所に向かっている感覚だけではなく、時間まで遡っているような気を起こさせる5時間近くの旅になります。アデルフィ社がこのような遠く離れた場所に蒸留所を建設すると決めたのは、同社のオーナーの一人がすでにその地に土地を所有していたためでした。

しかし、そのおかげで、水源やダンネージ式貯蔵庫に適したスペースなどを含む、スコッチの製造だけでなく熟成ための完璧な環境を得ることができました。 「8つの候補地があったが、 グレンベッグにある場所にしたよ。グレンモア川と丘の上の泥炭湿地から湧き出る泉の両方からの水が豊富で、スペースもあったから。」とアレックスは言います。「ピート層から湧き出た良質の軟水と西岸海洋性熟成気候は、まさに私たちの倉庫業にとって最高の環境だった。熟成気候なんてちょっとした黒魔術みたいなものだけど、ここは海岸からわずか半マイルのところにあるので、ウイスキーに強い塩気があるのは間違いない。そんな蒸留所は他にあるだろうか?」

Ardnamurchan has a 10,000 litre wash still and a 6,000 litre spirit still, built by Forsyths

自然の流れに身を任せる

この蒸溜所のスタイルは、アレックスが言うところの伝統的なウエストハイランドの特徴である、ピートが効いているが香りのきつくないものになっていきました。「このような場所での蒸溜所の管理で大切なことの一つはその環境の長所を活用することだ。現地で得られるものを使うと、その環境が持つ独特の味を最大限に引き出せる可能性があるから」とアレックスは言います。「だから、自分たちの可能性の最大限のクオリティーを得るには、基本的に自然に身を任せるのが最良の手段だと思ったんだ。柔軟性を維持するためには、ピーテッドとアンピーテッドの両方を行い、ボトリングされたウイスキーをより簡単に一貫したレベルに到達させるためのブレンディング能力を持つことがより理にかなっていた。また、それによって、将来のボトリングを、ピーテッドのみ、またはアンピーテッドのみの限定生産にすることも可能になるからね。」 「また、丘から湧き出る水は、蒸溜酒をアルコール含有量63.5%となる強度で加水して樽に充填するために使用しているが、現在規定されるすべてのろ過を経た後でも、驚くほどピート感が強いことを憶えておいてほしい。そのため、私たちはアンピーテッドモルトでも、わずかにピートの効いたウイスキーを提供している。」

2階建ての熟成

熟成は敷地内の2階建てのダンネージ式貯蔵庫で行われ、2つの階の間では条件が大きく異なっています。「下層階は非常に湿度が高く、美しい湿り気があって、温度は年中一定の12度に保たれているんだ。」とアレックスは言います。「あの建物の周りの丘の方から雨がたくさん降るので、大量の湿気があり、自然長期熟成のための貯蔵庫としては完璧なものになっている。しかし、上の階は全くその逆なんだ。床はコンクリートで、屋根裏にかなり近いので、例年2度前後から30度前後までの温度の変動が激しいんだ。夏にその中に入ると、そのアルコールにノックアウトされそうになるほどに。それが熟成を加速させているわけなんだけど、この2つの大きな違いにはワクワクさせられてきたよ。さらに丘を登っていくと、3つの1階建てのダンネージ式貯蔵庫があり、さらに別の2つの貯蔵庫がある。」 アレックスによると、アードナムルッカンで造られる蒸溜酒の65~70%はバーボン樽で熟成され、残りはシェリー樽で熟成されるか、様々なワインの樽で少量ずつ熟成されるのだそうです。

Alex’s philosophy has been to ‘maximise the unique flavours of the environment’

持続可能な展望

蒸溜所をゼロからスタートさせたことは、技術面でも白紙の状態から出発する機会となりました。アードナマーチャンのエネルギーを可能な限り自給自足できるようにすることが、アデルフィ社の将来の展望の中心となっていきました。そこは、スコッチウイスキー業界では初となる、地元の森林から供給される木材チップを燃料としたバイオマスボイラーを使用する蒸溜所となったのです。電気は水力発電所から来るものです。ドラフ(麦芽の搾り粕)は地元の家畜に与えられ、ポットエール(ウイスキー廃液)は地域の畑を肥やします。 「見方を変えると、それは常識に過ぎないんだ。」とアレックスは言います。「このような場所では 地域資源に目を向ける必要があるから。現地の材木は通常ならば大型の運搬車でフォートウィリアムまで運ばれるが、今では地元で利用されていて、植え替えもできるので、林業再生も地域の助けになっている。また、100%リサイクル素材を使用した箱の製造も開始し、これらすべてが炭素消費量の削減の実施や維持に役立っている。」 バイオマスボイラーの利点の一つは、蒸留所の冷却板から大量の余熱が出ていることです。その熱は、大麦のスモールバッチのためやその他のそこに残る実験的な使用ができるものを得るための麦芽床に利用するか、またはそこに溜まるピートを使った 『スモークボックス』に利用することができます。

ボトルに封じ込まれたメッセージ

テクノロジーの進歩はウイスキー業界においても表面化し、蒸留所が「ブロックチェーン」技術を採用することで、ウイスキー生産に関連するサプライチェーンのあらゆる側面を完全に把握できるようになりました。ブロックチェーンは、大麦を栽培した農家、大麦を製麦した麦芽業者、マッシュマン(糖化職人)、蒸溜業者、そしてもちろん樽の出所や歴史など、あらゆる情報を収集します。「現在は目標の約70%まで到達しているが、このプロジェクトが完成すれば、サプライチェーンと製造チェーンの完全なデータが得られるようになる。」とアレックスは言います。「全ての樽にはデジタルDNAの バーコードが付いていて 消費者はQRコードをスキャンすれば数週間情報に目を通すことができる。」 アンドリュー・アッシャーが今もいたとしたら、彼はそこまでのテクノロジーの発展と情報の透明性をどう評価したのであろうか。ブレンドの創始者であり、その一貫性の生みの親が、アードナマーチャンを賞賛しつつも見下しているのではないかと想像せずにはいられません。