メンバープロフィール: メデリック・ハウチャード

お茶に乾杯

著名なお茶のブレンダーであるジョニーウォーカーやジェイムズ・シーバス、アーサー・ベルの 歴史では、お茶の葉の仕事からウイスキー貯蔵への変遷はよく知られている。 スコッチ・モルトウイスキー・ソサエティ(SMWS)のメンバーであるメデリック・ハウチャードは 逆の変遷をした。つまりスピリッツとウイスキーからシングルバッチのお茶の世界へと変遷し、 その経緯をリチャード・ゴスランに語った。

写真: ALEXANDRE BRISEBOIS

Lalani & Co source single-batch teas from individual estates across the world

メデリック・ハウチャードの関心がなんであれ、彼のアプローチの仕方は一つの簡単なコンセプトで決定される。そのコンセプトはいかに人が集められるかである。

幅広い食品の世界を開拓し、理解することに捧げたキャリアを持つこのSMWS メンバーは、その決定の原則に常に立ち戻ろうとしている。 「分かち合うことは私にとって最も大切なことです。」とメデリックは言う。「人間同士が与え合う影響が好きで、その全員が持っている共通点が食べることと飲むことなのです。ワインでなければウイスキーでしょうし、ウイスキーでなければ紅茶でしょうし、紅茶でなければハーブティでしょう。人をつなぐにはテーブルを飾り、食通の食事を出します。その真ん中にある飲み物は、人の心と産地の特徴を象徴します。勢揃いです!そのため自分は少しずついろいろな分野に出現してきました。」

メデリックの言う少しずついろいろな分野というのは、ソムリエ、ワイン生産者、ウイスキークラブの創始者、またチューターとして世界中を旅した経験を含むものである。ロンドンのグレヴィル通り19番にあるソサイエティのメンバールームにはチューターとして参加しつつ、現在はシングルバッチのお茶専門店である、ロンドンのララニ&カンパニーで仕事をしている。この会社はそれぞれ異なる地所の小さなバッチのお茶をソーシングするのが専門の、家族経営の会社である。シングルカスクのソサエティのボトルに近く、各瓶には地方名、生産者、季節性、使用されたお茶の木のセパージュ、さらには各バッチがいかに作られたかという情報がついてくる。「最初に会社の創始者とディレクターであるジャミール・ララニに会った時、シングルバッチのお茶はまさしくシングルカスクのウイスキーと同じであることに気が付きました。」とメデリックは回顧する。「シングルバッチの意味するところは、一つの国、一地方、一農園、一期の収穫、そして一季節での収穫です。そしてシングルカスクのように瓶にはバッチの番号をふります。」

それはどこから来たのか

ハーブティと異なり、お茶と呼ばれるためにはツバキ植物から採取した飲み物でなくてはならない。ただしツバキの品種は300以上あり、そのうちの2つだけがお茶に適している。[カメリア・シネンシス・シネンシス]と呼ばれる中国産のもの、そして[カメリア・シネンシス・アサミカ]と呼ばれる北インド産のツバキの2種類である。日頃目にするお茶の種類はこの2つの植物から、葉がさらされた酸化レベルによっていろいろな工程で生産されている。 「美食的アプローチでは、シングルバッチのお茶というのはある意味でシャンパン、白、赤、ロゼワイン、スピリッツに非常に近いものです。」とメデリックは説明する。

「白茶はヴィンテージのシャンパンと同じように繊細で深い味わいです。緑茶は端的にピートウイスキーやアルザス産のリースリングワイン、あるいはロワール渓谷のシュナン・ブランに例えられます。

黒茶のいくつかはヴィンテージのフラパン・コニャック、マッカランの12年ものシェリーカスク、さらにはバローロワインやブルゴーニュワインと同様な味わいがあり、驚かされます。

シングルバッチの台湾産のウーロン茶は何十年もクレイ瓶で寝かされ、コニャックの一族が密かにしまっている最上級の高価なオードヴィや、スコットランドの熟成庫が上手く歳を重ねたウイスキーの原料を円熟させる旅へと誘います。」

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Médéric Hauchard, photographed by Marie de Chesse

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しかし季節性も、特別な[フラッシュ]を持つお茶の特性を決定するのに必須の条件です。フラッシュは一年のうちで芽を摘む時期のことで、これが風味に大切な役割を持っています。 「最初の芽摘み茶は春の新葉の芽から摘まれたもので、お茶は軽く、よりエレガントな風味です。さらに低いタニンのせいでフルーティ、フローラル風味も楽しめます。」とメデリックは語る。

「5月、6月の2回目の芽吹き葉には、より麦芽のような特徴があり、時にハチミツの入ったマスカテル、あるいはほんのりとマーマレードのような風味もあります。7月と8月のモンスーン期は雨が多いので、濃淡度も複雑な風味もありません。秋になると冬の休止期を前に植物の成長が急に遅くなります。するとお茶葉の質がまた向上します。」 特徴がどうあれ、メデリックにとってはウイスキーにするように、お茶を選ぶのも同じ原則が適用される。つまり人々がいる状況とその背景に左右される。

「味覚の設定はアペリティフ用ですか、それともディナー後の葉巻と組み合わせる飲み物をお探しですか?

日曜日の午後に暖炉の側に座って読書をする時に、一番適した飲み物はなんですか?メインコースかデザート、それともチーズプレートに合わせる飲み物にご関心がありますか?ご一報ください!」と彼は言う。「日本の九州とスコットランドのアイラを例に取ります。ラフロイグ10年のカスクのような、アイラのウイスキーの力強さは、シーフードや甲殻類とのマッチが抜群ですが、私にとっては鹿児島のかぶせ茶のような日本の緑茶と牡蠣との相性は理想的です。友人のオイスター・メイスターのオーナー、ジェイムズ(ボウエルズ)とは良く一緒に試験をします。これらのお茶園とウイスキーは同じDNAを共有するかのように、熟成、あるいは海に面した地形で成長することが、似たような条件と風味特徴をもたせます。」

セレモニー

お茶をいただく作法は、周知の通り異なる文化で行われており、日本の精巧な抹茶作法、中国や台湾のゴンフー作法などがそうである。英国でも多くの伝統的な蒸溜所では今でも1日の区切りを一同のティーブレイクで刻む。しかしお茶を飲む時には、メデリックの分かち合いの経験を祝福する原則に常に戻っていく。

「全ては分かち合うことです」と彼は言う。「人はよりあい、グラスに入ったお茶であれウイスキーであれ、自分たちの味わう味覚を分かち合っているのです。『あら、この風味は祖母のアップルパイを思い出させます』と言うように。」物語を語り、アイデアや優れた個人の秘密情報を交換するのは、誰かとお友達になる最良の方法でしたよね。よく言うように、『グリーンサラダを食べる二人がいました』で始まる物語ほど素敵なものはありません! ララニについてはこちらのウエブで検索 www.lalaniandco.com

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