蒸溜所プロファイル
シェルターポイント, バンクーバー島
ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティは、英国外で次々と増える格別のウイスキーのリストに、カナダのバンクーバー島の農地に立つシェルターポイント蒸溜所を迎えることになった。 シャーリーン・ルークが蒸溜所の背景と、スコットランドの影響の際立つカナダの地で生まれたソサエティ初のボトルを紹介する。
ウイスキー愛好家は、しばしば狭い海峡をフェリーや水上飛行機で渡り、車を運転して海沿いの断崖にある農場まで巡礼の旅をする。日光が大麦畑を金色に輝かせる。大麦が実る肥沃で特別な土地は、かつては名門大学の研究用農場だった。納屋のような建物(仏塔を乗せた石造りの蒸溜所というよりケンタッキーのようだ)の内部に入ると、傾斜のついた明かりが、緑青付けされて輝く銅製のポットスチルを照らしている。スペイサイドのフォーサイス製だ。
この土地で熟成される何千ものバレルの1つから作られたシングルモルトは、折り紙つきの一品だ。グラスに注ぐと黄金色に輝き、口に近づけるとさざ波立ち、舌に載せればクリーミー、白檀や流木のほのかな香りが揺らめき、温かなジンジャーと口の中を潤す潮の香りのフレーバーで終わる。
しかし、ここはスコットランドではない。 このスコットランドの影響を強く受けた蒸溜所は、カナダのブリティッシュコロンビア州、バンクーバー島のキャンベルリバーのすぐ南にあるのだ。シェルターポイント蒸溜所は、ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティで発売された初のカナダ産ボトルの故郷だ。2022年秋に英国向け商品として152.1の番号をつけて230本程度が販売されたが、この画期的なボトルは同年1月にカナダで、商品にふさわしい「鮮やかで活気がある(Vibrant and vigorous)」という名をつけてデビューを果たしている。
世界的なウイスキー挑戦者
「栄誉の印で、とても誇りに思っています」そう語るのは、最近シェルターポイントのジェネラルマネージャーに任命されたスティーブン・グッドリッジだ。長年バルバドス・ラムの蒸溜に携わってきた彼は、2013年、ブリティッシュコロンビア州にカナダでもごく初期の小規模生産蒸溜所、グッドリッジ&ウイリアムズを設立した。(この蒸溜所は2020年、ビール醸造の大企業ラバットに買収された。)「私たちは伝統的なスコットランドスタイルを作り出しています」と彼は語る。が、そこにはカナダの革新的な手法を伴っている。
スティーブンはシェルターポイントが世界的なウイスキーの挑戦者に登り詰めた理由をいくつか挙げている。 同蒸溜所は製麦していない大麦から小麦やライ麦まで実験してきたが「私たちの麦芽は特別な品質を備えています」と彼は言う。同地の農場育ちと、ほかのブリティッシュコロンビアの生産者から買い付けたグレーンは、100%ここで仕込みをする。 その後、我慢の1週間の発酵を経て、複数のエステルが含まれる豊かなもろみ(ウォッシュ)ができあがる。スチルの下向きのラインアームは、スティーブンによれば「非常に口当たりの良い」製品を作るのに役立つ。63度で試飲するときでさえ、ニューメイクのテクスチャ―は際立ってクリーミーだ。農場内で得られる帯水層の地下水は、製造の各段階で使用されている。 元は納屋だった熟成用倉庫は、この辺りの個人所有の海岸では最も長く伸びる断崖の近くに建てられている。「もちろん海が近い影響はあります」とスティーブンは言う。
そもそもの物語
ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティが購入したシェルターポイントの3つのカスク(カスク番号152.2:トロピカルの宝庫と152.3:ひと房のバナナ)も発売済み)の物語は創立12年になるこの蒸溜所の幼年期に遡る。「ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティによる初のカナダ産ウイスキーのボトリングに参加するのは名誉なことでした」とは、ソサエティの会員でありカスクが購入された2020年当時のシェルターポイントのマスターディスティラー、レオン・ウェブの言葉だ。ソサエティの小売販売パートナーで、ブリティッシュコロンビア州ビクトリアにあるストラス・リッカー・マーチャンツの蒸溜酒担当責任者であるアダム・ブラッドショーは、ソサエティカナダ支部の創設者であるケリーとロブ・カーペンター夫妻をビクトリアから北へ数時間ドライブしたところにあるシェルターポイントへ最初に案内した人物である。 「私たちはいつも新しい蒸溜所を探しだしてカナディアン・ウイスキーを広めるのは、ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティカナダ支部の権限の一部だと考えていました」とロブは言う。ケリーとロブは10年にわたり、価値あるカナディアン・カスクを探し求めていた。
レオンとシェルターポイント蒸溜所のマネージャー、ジェイコブ・ウィービーは、2020年3月、ロブとケリーと共に、内輪でカスクサンプルのテイスティングを行なった。パンデミックが海外への移動と商取引に急ブレーキをかける直前のことだ。ロブは2019年にエディンバラでホーリールード蒸溜所を共同で設立していて、すぐにそこへ戻る計画だった。この旅行計画が延期になったので、カーペンター夫妻は腰を据えて、ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティのウイスキー製造責任者であるユアン・キャンベルとリースにあるザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ蒸溜酒チームに向けて見込みのあるカスク・サンプルをいくつか送った。その中から3つが選ばれたというわけだ。
「シェルターポイントの初紹介はソサエティの伝統的な哲学にぴたりと当てはまりました。つまり、極上のシングルカスク・モルトウイスキーということです」今はスコットランドに戻り、タムナブーリンで蒸溜所マネージャーを務めるレオンは言う。
上: SMWS カナダのロブ・カーペンターがジェイコブとレオンと合流し、炉端でのテイスティング
畑からスキットルまで
シェルターポイントは長年にわたりウイスキー業界で話題を集めてきた。2017年に初めて蒸溜所を訪れたときは、シェルターポイント創設者の右腕のジェームズ・マリナスと、家族経営の農家の3代目というパトリック・エバンスと共にピックアップトラックに乗って、農場を案内してもらった。ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティでのデビューを飾った製品の蒸溜を担当したジェームズは、最近到着した何百ものカスクが液体を注がれるのを待っていると教えてくれた。また当初、以前にディアジオで蒸溜を担当していたマイク・ニコルソンがバンクーバー島へ隠退したところをうまく説得して、スタートアップを手伝ってもらったとも明かした。
「ここは常に農家が経営する、畑からスキットルまで一貫して関わる蒸溜所です」現在のジェネラルマネージャー、スティーブン・グッドリッジは誇らしげにそう語る。 操業開始から10年以上を経た今、野心的な熟成とブレンディングのプログラムが蒸溜所の製品をレベルアップしている。現在、国全体でカナディアン・ウイスキー分野の思い切った調査と改革が進行中だ。そこにはいわゆる9.09%ブレンドルールが少なからず関係している。このルールは新世界らしい、改革に柔軟に対応したことで有名で、生産者は全体の11分の1まで他の蒸溜酒やワインをブレンドの中に添加できる。
スティーブンが加入して間もなく、蒸溜所のシグニチャーであるモルトウイスキーの新樽が権威あるサンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティションでダブルゴールドを獲得した。
「現在はいろいろな種類があり、様々な木材も取り揃えています」そう彼が言うのは、ブリティッシュコロンビアのワイン樽からバルバドスラム、カリブのアグリコールラムのカスク、さらにもっと伝統的なシェリー、ポルト、そしてピーテッドモルトのカスクまでのすべてという意味だ。「それから今は、さまざまな熟成年数(のウイスキー)にも取り組んでいます」
愛を分かち合う
受賞やザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティのボトルの名声は、確実に世界のウイスキー愛好家にシェルターポイントの名を広めるのに役立つだろうが、「現在の私たちの挑戦は国内での知名度を上げることです」とスティーブンは言う。シェルターポイントを訪れる客の多くは、ウイスキー目当てですらなく、地元住民か世界的に有名なサーモンフィッシングやホエールウォッチング、あるいはカナダ沿岸の先住民族の伝統遺産を目的に訪れる旅行客だ。
しかしウイスキー愛好家としてテイスティングルームに入ったのではなかった客のほとんどは、ボトルを手にして帰っていく。 「カナダ人はカナダ製品を応援したいと思っているんです」とスティーブンは言う。ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティのカスク番号152.1のボトルは1月のビクトリア・ウイスキー・フェスティバルで初披露目された。しかし152の最初のボトル、それに続くボトルの多くは世界中で入手可能となるだろう―そしてそれは、意図的なものだ。
「シェルターポイントの愛を世界中の他の支部へと広めるのが狙いです」ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティカナダ支部のケリー・カーペンターは、そう言う。<鮮やかで活気がある>は、カナダからウイスキーの世界へのラブレターだと考えてほしい。
シャーリーン・ルークはバンクーバーを拠点とする飲料関係のジャーナリストであり、コンサルタントであり、スピリッツ・エデュケーターだ。