ウイスキーの歴史

足、爪、カスク

世の中には猫好きの人と犬好きの人がいるようだが、蒸溜所の犬は、労働者が貯蔵所のカスクからウイスキーを不正に持ち出して家に運ぶ際の運搬の役割に使われることが多い。 一方、蒸留所の猫は常に本物の生きた取引相手だ。8月8日月曜日の世界猫の日を記念してギャビン・D・スミスがレポートする。

メインフェラインズ ピーター・サンドグラウンド

すべての製麦が個々の蒸留所の中で行われていた時代は、敷地内に穀類が大量にあった。そして穀類のあるところ、ネズミがいる。 明快な解決法の1つが猫を飼ってこの問題に対処させるというものだ。

スコットランドのネズミ捕獲の女王は議論の余地なくグレンタレット蒸留所のタウザーだ。24年の生涯で28899匹を下らないネズミを捕獲した。 正確な数字を知っているのは、それが「ギネスブック」に登録されているからだ。

実のところ正確な数字が分かっているわけではない。ギネスブックに登録する際のプロセスは単に数日間タウザーを観察して何匹のネズミを捕まえるかを観察し、タウザーがグレンタレットで働いた日数をかけるというものだった。

それでも1987年の死後、タウザーは故郷と呼ぶパースシャーの蒸留所で銅像となり、不死の存在となった。そしてグレンタレットの猫というテーマは継続され、現在はグレンとタレットという想像力豊かな名前を持つ猫がその役割を担っている。

上: グレンタレットで不朽の名声を誇る「タウザー」

上:タウサーの後継者であるグレンタレット蒸留所のグレンあまり活発ではない

タウザーは、ネズミの数の多さへの嫌悪感に限定しているようだが、もっと恐ろしい猫の話もあって、その1つがアードモアのトミーだ。アードモアのトミーは半分野生で、アバディーンシャーのその辺りでは最大だと言われていた。 トミーは人間の接触を拒否していて、それは蒸留所の近くを通るインバネス―アバディーン間の列車との接触事故で脚を1本失ったあとも変わらなかった。

現在、敷地内でフロアー・モルティングを行っている蒸留所はほとんどなく、床にこぼれている穀類が激減したので、ネズミの捕獲者は必要不可欠ではなくなってきている。 また衛生面、健康面、安全面での法律でも、製造エリアでは歓迎されざる存在になりつつある。

しかし蒸留所の猫は、抜け目ない猫の習性らしく状況に適応し、蒸留所の訪問客に提供するサービスの一部と化した。その上、実家のサイトの人気上昇にも一役買うことを期待されてすらいる。 ファイフのリンドーズ蒸溜所には2匹のインスタグラマーの猫がいて、その名をヴェスパー(晩鐘の意)とフライアー(修道士)・ジョン・クロウという(役割が見えるようだ)。同じくアイラのキルホーマン蒸溜所はピーティとスモーキーのお世話になっている。

ハイランドパーク マウザー、バーレー

このように皆に追いかけられるようになった蒸溜所の猫の草分けは、たぶんエルヴィス・ジュラキャットで、生まれ故郷で開催された2010年のジュラ・ミュージック・フェスティバルで、猫の目でイベントを眺める「キャットカム」を装着されたのだった。 エルヴィスは自分だけのフェイスブックを持っていることも誇りにしている。

Fヘブリディーズからオークニーに目を向けると、ハイランドパークには長い間、蒸溜所の猫の伝統があったが、悲しいことに蒸溜所前のホームロードの交通量が多いため何度か事故に遭ってきた。 2006年にバーリーが天に召されたあと、後任は任命されないことになった。

バーリーは蒸溜所内の店舗でレジの上に寝そべって時間を過ごすのが好きな猫として知られていた。ぬいぐるみのような姿で、訪問客に安全だと錯覚させていたのだ。 しかし訪問客が触れてみようとすると、素早い爪攻撃を受ける羽目になり、見物人はぬいぐるみではないと確信することになる。

告白しよう。バーリーが最期を迎えたとき、私は「You’ve lost that loving feline」という見出しで記事を書いた(訳注:見出しの「あの愛らしい猫を失った」は"You've lost that loving feeling"(「ふられた気持ち」という有名な曲のタイトルとかけている)

失礼。

心温まるディジーの物語で楽しい気分になることにしよう。ディジーは最初につけられた名前だ。 遡って1993年、スペイサイドのキースにあるシーバス兄弟の保税倉庫が並ぶ一画で、ケンタッキーからバーボンカスクの容器が新しく到着した際に、みすぼらしい白黒の猫が発見された。どうやらカスクの中味を舐めて長旅を生き残ったらしく、それで最初は足取りがふらついていてディジー(めまい)の名をもらったのだ。 ディジーーはグレンキース蒸溜所で生活することになった。そこではブレンデッドスコッチのパスポートというブランドを製造していたので、次の名前はパスポートになった。

猫を飼う伝統を持つのはスコットランドの蒸溜所だけではない。2017年に米国で出版されたブラッド・トーマス・パーソンズの本、『Distillery Cats: Profiles in Courage of the World's Most Spirited Mousers(仮邦題:蒸溜所の猫:世界で最も熱心なネズミ捕獲者の勇気に見る横顔)』 で明らかになっている。 この本では説明書きと写真で醸造所と蒸溜所の猫30匹が紹介されている。オレゴン州ポートランドにあるトーマス・アンド・サンズ蒸溜所にいるメインクーンブーンから、シアトル蒸溜所のキャスターまで。黒い歯ブラシ状の「口ひげ」が目立つキャスターは、ソーシャルメディアの名付け投票で危うくキットラーの名前をつけられるところだったそうだ。 キットラーの弟はもう少しでマウソリーニ(訳注:マウス+ムッソリーニ)になるところだった。

上:リンドアーズのヴェスパー

上:修道士ジョンクロー

上:キルホーマンのグレインプロテクター

ストックホルムのSMWSパートナーバー「アードベッグ・エンバシー」とジャックラッセルテリアの「ショーティ」のポートレイト

公平とバランスに配慮して、番犬以外の蒸溜所の犬の話もしておくべきだろう。 最も有名なのは間違いなくアードベッグのジャックラッセルテリア、ショーティだ。

2019年、蒸溜所は骨の形をした限定ギフト缶を展開した。また世界中のアードベッグ「エンバシー(公認店舗)」ではこの犬の写真が飾られている。

大西洋の裏側のアラスカでは、アマルガ蒸溜所に、首にウイスキー樽をかけて運ぶウォルターという名の大きなセントバーナードが住んでいる。一方、ミシガン州トーチレイクのマンモス蒸溜所には3匹の丸々としたニューファンドランドが飼われていて、その名をデューイ、バンクス、ドーソンという。 こうした犬は一般的にただ寝そべってよだれを垂らし訪問客の相手をするだけだが、昨年、ウイリアム・グラント&サンズは仕事をするコッカースパニエル、ロッコを雇った。ロッコはエアシャーのガーバン蒸溜所で、熟成中のウイスキーの欠点を嗅ぎ分ける訓練を受けてきた。 デイリーレコード 紙によれば、ロッコは上司であるアソシエート・グローバルブランドディレクターのクリス・ウーフに報告するということだ。

上:侵入者を発見する大麦