ソサエティのシングルモルトウイスキーのカスクストレングスに含まれる複雑なフレーバーを完璧に表す言葉を見つけるのは簡単な仕事ではない。1983年にソサエティが創設されたときには、ウイスキーを説明する言語はほぼ存在していなかった。ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティのテイスティング・パネルの内側を知る人間が、ウイスキーを語る言語と、ソサエティがグラスの中の液体について語る新しい方法を見つける最先端にいる理由について秘密を明かしてくれた。
フィッシャーマンズ・フレンド1. ブラッソ2. ダンディライオン&バードック3. ペトリコー4. この、テイスティング・パネルが長々と連ねるダンネージ式5 熟成庫の中味は一体何なんだろう?
あなたが、私たちのテイスティングノートに書かれた用語に少しでも困惑したことがあるとしたら、心配は要らない。それはあなただけではないから。 テイスティング・パネルの一員である私でさえ、時として仲間のパネリストが使う用語の意味をお気に入りの検索エンジンで探らなければならない。
しかしそれもすべて楽しみの一部だ。それにインターネットで検索してまわらなければ、乾いた土に降る雨の匂いを描写する完璧な言葉を見つけることはなかっただろう(それがペトリコーで、土を思わせる香りを感知したときに使うのにぴったりの単語だ)。
本当のことを言えば、ウイスキーを語る言語は、その評価や楽しみと同じで、非常に個人的なものだ。しかし1983年にソサエティが創設されたときには、グラスの中味のアロマやフレーバーを説明する言語がほぼ存在していなかったことを考えるのは興味深い。当時、ウイスキー会社は客に対して、専ら熟成年数やスコットランドの伝統であること、口当たりがどれほど「スムーズ」かを告げるだけで、その中味の本当の味は、ほとんど提示されなかった。
ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティは、個性が多様で、各々のボトルが独自の性格を持つシングルカスク・ウイスキーの発見に伴い、ボトリングする各ウイスキーを試飲し承認するだけでなく、そのアロマとフレーバーを説明する必要があると判断した。そこでテイスティング・パネルの原型が生まれた。創設者のピップ・ヒルズ自身が参加したにも関わらず、初めてエディンバラのスコットランド・ストリートにある彼のアパートのキッチンに多種多様な者たちが集合したときは、簡単な船出にはならなかった。
「私の前には、試飲用の6種類のウイスキーとノージンググラス、水が並んでいた」 ピップは自著の『The Founder’s Tale(創設者の物語)』の中でそう描写している。 「私はこれからしてほしいことを慎重に説明した。つまり委員会のメンバーはまずウイスキーをじっくり観察し、水を入れずに匂いを嗅ぎ、次に水を入れて匂いを嗅いでから、味わってほしい。* そして各段階で蒸溜酒に感じたフレーバーをできるだけ正確に描写してほしい。暗喩も直喩も使ってかまわないが、厳密に正確な範囲内でお願いする。全員が厳かにうなずき、最初の1杯に取り組んだ。
第1回のテイスティング委員会は失敗に終わったと認めざるを得ない。私は結局自分でテイスティングノートを書いた… その後、委員会は刷新され、そこまで高い希望を持たなければ、何らかの価値は生み出したと言えると思う。私たちが初めてのニューズレターをソサエティのメンバーに送り、ボトルの中のウイスキーについて(用心深く、遠回しに)告げ、テイスティングノートを添付したとき、メンバーたちは確かに価値があると考えたようだ。そして、現在世界中に出回っているウイスキーボトルのラベルを証人と考えるなら、私たちはスコッチウイスキー業界全体が真似するに値すると考えたことをやってのけたのだった」
*テイスティング・パネルのやり方は現在までほとんど変わっていない。サンプルの色に注目し、それから匂いを嗅いで、水を入れずに味わってから、水を入れて味わう。これは互いの影響を避けるために、すべて沈黙のうちに行われる。 各参加者は、プロセスの各段階で点数をつけ記述してから、ボトリングにふさわしい品質かどうかを判断する。合格と決まったら、テイスティング・パネルの議長はテイスティングノートを編集し、ボトルの名前を決める。
1 強烈なメンソールののど飴
2 金属研磨剤
3 ルートビアに似たスコットランドで人気のソフトドリンク
4 雨が降ったあとの乾いた土の匂い
5 土の床の伝統的なウイスキーの熟成庫
6 スコットランド式の「創造物(creature)」の言い方でウイスキーを指している
7 バグパイプで奏でられる旋律
8 ベルギーの発酵ビール
9 フランスのアルザス地方で作られる甘口の白ワイン
10 マッシュポテト、チョコレート、ココナツで作る歯がボロボロになりそうなスコットランドの菓子
11 南部アフリカの乾燥した保存用肉
12 ペパーミントオイルでキャラメルにした砂糖菓子
13 砕けやすいミント菓子
14 コーンスナック。様々な味がある。
15 ヘーゼルナッツとココア味の甘いスプレッド
ピップが最初に考えたテイスティング・パネルのメンバーの資格は「読み書きができてクレター6が好きな人」に限るというもので、それは現在でもかなり当てはまっている。ただそれはメンバーがウイスキーの楽しみを言葉に置き換えるという挑戦に直面したときに成功することを保証するわけではない。
詩人、ソングライター、民俗学者、エディンバラ大学のスコットランド学科の共同創設者、そして情熱的なウイスキー愛好家であるハーミッシュ・ヘンダーソンは適任と思われたが、テイスティングノートへ貢献するようにとの依頼に丸め込まれはしなかった。 「こんな素敵なウイスキーを単なる言葉にして説明するなんてもったいない。 “ピブロック7 ならできるかもしれないけどね」” 「単なる言葉」ではウイスキーを正しく描写できないと聞いて、誰もが感銘を受けたのではないだろうか。
現在、テイスティング・パネルは多文化を背景にした、多様な専門を持つ、幅広い年代、ジェンダー、国籍のメンバーで構成されている。ランビック・ビール8 という言葉がカスク番号39.183「キュラソーの中のクリーク・ビール>」に使われ、ゲヴュルツトラミネール・ワイン9 がカスク番号63.57「喜びの野原」に、マカロンバー10 がカスク番号28.43「筋肉のような勢いと迫力」に、ビルトン11 がカスク番号108.18「パンチェッタ・ルーレット」に登場したのはそういう理由からだ。
昔ながらのお菓子、例えばハウィック・ボール12 やベリック・コックル13, といったものへの郷愁的な言及があれば、テイスティング・パネルのベテランでウイスキーの吟遊詩人、ロビン・ラングの手によるものだと気付くかもしれない。若いメンバーは例えばオニオンピクルス味のモンスター・マンチ14 を使ってカスク番号93.122「ボールドリックのコズミック・ターディス」を、またヌテラ15 スティッキーバンズを使って、カスク番号46.81「パーフェクトなパフェ」を説明するようだ。
あなたがすべての用語を理解するかどうかは重要ではなくて、ウイスキーを評価する楽しみの一部は、そのアロマとフレーバーと自分自身のつながりを見つけることだ。だから友人と共に自分だけの非公式なテイスティング・パネルを結成して、自宅で試してみてはいかがだろうか。世界中のSMWSメンバーで、エディンバラへの旅と「Gathering 2023」のボトルを選び、テイスティングノートを書くという賞を獲得した幸運な皆さんは、この2月に独自のテイスティング・パネルを体験できる。
最後にピップから役に立つ言葉をお届けしよう。「これは深刻なものでは全くないということを忘れないでほしい。正解でなくてもたいしたことはない。実際、味と同じくらい主観的なことで、絶対的な正解も不正解もないのだ」
さあ、今度はあなたの番だ…