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01 Cover
02 Festival bottlings
03 Maverick history: experimental casks
04 SMWS timeline
05 Distillery profile: Milk & Honey
06 Society International

蒸溜所プロフィール

ミルク&ハニー:熱い気持ち

この蒸溜所は、中東の地中海沿岸に位置する高温多湿なイスラエルの都市にある。霧に覆われがちで雨に打たれることの多いスコットランドの峡谷とはまるで違う場所だ。しかし、テルアビブのミルク&ハニー蒸溜所のチームは、その猛暑をうまく利用する方法を見つけている。ダンカン・ゴーマンがレポートする。

ミルク&ハニー(通称M&H)はイスラエル初の蒸溜所で、2014年に試験的な蒸溜を開始した。2015年に最初の本格的な蒸溜を実施し、2017年5月にイスラエル初のシングルモルトを発売した。

創業者たちは、アドバイザーとしてウイスキーの専門家である(故)ジム・スワン博士を、またヘッド・ディスティラーとしてトメル・ゴレンを雇った。この蒸溜所はイスラエルにあるが、スコットランドの生産者と同様のウイスキー製造に関するルールに従っており、3年間以上熟成させたスピリッツのみをウイスキーと呼んでいる。

「イスラエルでは、ウイスキー製造に関する規制がありません。ウイスキー製造の市場としても非常に小さく、若いのです」とトメルは言う。「だからこそ、より厳しく、世界的にも評価が高いスコットランドのルールに従うことにしたのです。」

上: M&H ヘッドディスティラー トメル・ゴレン

M&Hがルーマニアの納屋から救い出した容量9,000リットルの伝統的なウォッシュスチルは、この蒸溜所の輝かしい受賞歴に貢献している。「この蒸溜所はユダヤ教の戒律に従っているため、週に5日間、1日2バッチずつウイスキーを製造しており、金曜と土曜は作業しません」とトメルは語る。「蒸溜は、2基の伝統的なポットスチルで行っています。ウォッシュスチルは、ドイツのウェブサイトを通じ、ルーマニアの納屋から救い出したもので、容量は9,000リットルです。非常に状態が良かったので現在も十分使えていますし、素晴らしい仕事をしてくれています。スピリットスチルは容量3,500リットルで、ドイツのCARL社製です。」

M&Hはスコットランドと同様のルールに従っているが、イスラエルは非常に暑いため、スコットランドでは考えなくてもよいような障害を乗り越え、独自の道を歩むことを余儀なくされている。「夏は気温が40℃に達することもあり、湿度も非常に高く、時には90%にもなります。カットポイントのアルコール度数は80~70%と高めに設定し、ラインアームは45°下向きの傾斜をつけています。カットポイントが高いのは、蒸溜液中の余溜液の損失を避けるためです。オイリーなフルボディのニューメイクやスピリッツが欲しいので、それを実現するために、ラインアームを45°下げています。これは、暑い気候のために、製造過程の中で加えた変更点の1つです。」

喉が渇いた天使たち

しかし、暑さが特に大きな影響を及ぼすのは、熟成段階である。熟成はウイスキー製造において大きな役割を果たすが、 M&Hのスピリッツが熟成される環境は、スコットランドのハイランド地方の湿った冷たいダンネージ式倉庫とはまるで別世界のように感じられる。イスラエルでは気温が高いため、蒸発量が非常に多く、年間25%もの「天使の分け前」が失われる。スコットランドでは年間2%程度だから、驚きの数字だ。

「1年に25%の天使の分け前は多すぎます。つまり、死海で3年間ずっと熟成しているわけではありません。死海での熟成期間は1年半だけです。」

トメル・ゴレン

これは同時に、急速な熟成の引き金となる。スピリッツが濃縮されるにつれて、樽板からより強い影響を受け、非常に短い期間で驚くほどフルボディのウイスキーができあがる。イスラエルは非常に小さな国だが、5つもの気候帯を持ち、そのすべてが熟成のプロセスに独自の影響を与える。トメルは次のように説明する。「気候帯ごとに条件が異なり、熟成のプロセスもそれぞれの間で異なります。死海は地球上で最も低い場所にあり、私たちはそこで3年間熟成を行ったこともありますが、50℃に達する場合もあります。

とても乾燥していて、大量の天使の分け前が蒸発します。標高が低いので気圧も非常に高く、その点でも反応が異なります。」トメルは付け加える。「1年に25%の天使の分け前は多すぎます。つまり、死海で3年間ずっと熟成しているわけではありません。死海での熟成期間は1年半だけです。その後はカスクを蒸溜所へ送り返します。

また、その逆に、熟成を蒸溜所で始めた後に、死海へ1年半送る場合もあります。カスクの一部がすでに空になっているので、反応も異なります。」

上:死海は年間25%の天使のシェアを主張しています。

無限のパラメーター

トメルはウイスキー業界で約20年働いており、スピリッツ製造時のパラメーターの組み合わせの無限さに魅了されてきた。それはM&Hの発展の最前線で大きな役割を果たしている。「この無限さは大きな魅力で、M&Hが重視していることの1つです。私たちはあらゆるステップで実験を重ねています。たとえば、異なる大麦、異なる酵母、異なるカットポイント、異なる充填ポイント、そしてもちろん熟成などの要素です。それこそが私にとってのウイスキーの魅力なのです。

「選択肢の限界がないのは驚くべきことです。毎日必ず、新しく知った知識や試してみたいことがあり、新たなアイデアが生まれています。」

トメルは、ソサエティがリリースする珍しいシングルカスクに特に魅了されている。「私は、すべてのインディペンデントボトラーのシングルカスクが大好きです。なぜなら、1つのカスクが1つの特定の時代を表現しているからです。蒸溜所の稼働期間における特定の時期や、その時期の中の蒸留プロセスを垣間見ることができる貴重な機会ですし、素晴らしいことだと思います。SMWSによるボトリングは、私たちにとって大きな名誉です。」

ソサエティの会員もM&Hに対して同様の気持ちを持っていることは、同蒸溜所初のSMWSボトリングであるカスクNo. 155.1:ライ・プリテンダーがわずか数分で完売したことからも明らかだ。しかし、この中東産ウイスキーのシングルカスクをソサエティから入手できる次の機会は、そう遠くないかもしれない。SMWSのウイスキー開発責任者であるユアン・キャンベルは、今後もM&Hのウイスキーのリリース予定があることを明言している。