
蒸溜所案内:オスロスク
目に見えないもの
1970年代初期、米国で顕著だったJ&Bブランドの大成功は、ブランドオーナーのインターナショナル・ディスティラーズ・アンド・ビントナーズ(IDV)にとって、さらにウイスキーが必要になったことを意味していた。当時の同社の蒸留所のポートフォリオには既にストラスミル、ノッカンドオ、グレンスペイがあったが、最大生産量に達していた。解決法はウイスキーの供給量を増やすだけでなく、ブレンディングのニーズも満たすのに必要なスタイルを作るという野心溢れるプロジェクトになった。SMWSのアンバサダー、リー “コンナス” コナーが、オスロスクの名もなきヒーローを通じて私たちを案内してくれる。
蒸溜所の建設は決して簡単ではない。より最近の建設においても、新進プロデューサーたちは、奇をてらいながら妥協も必要な落とし穴だらけだと証言するだろう。 もちろん事態が収拾した暁には、そうした挑戦は蒸溜所を動かす豊かなタペストリーに質感を付け加えるだけに過ぎない。オスロスクの場合、私たちが目にするのは機能と、当時は珍しかったファッションの興味深いバランスだ。
それほど醜くないアヒルの子
一歩下がって、1960年代後半と1970年代初期のプリズムを通して業界を眺めてみると、新しい蒸溜所―大規模改築ですら―は遥かに工業的なアプローチを取っていた。より信頼性の高い結果を達成する目的で、科学とテクノロジーを積極的に活用し始めていたからだ。
これが当時の蒸溜所や大規模改築のよりブルータリズム的デザインに反映されている。堂々として工場のようなロッホローモンド。トミントールは、国立燃料効率化事業団の設計で、その平坦面と直角の多用は伝統的なスコッチウイスキー蒸溜所というよりも、たぶん発電所を連想させる。アイラの有名なカリラでさえ、今日に至るまで「外」の眺めのほうが蒸溜所「そのもの」の眺めよりも名高い一群の建物へと変身した。
だから、1974年にオスロスクが生産を開始したときに、産業活性化の絶対的な勢いが伝統的な建築の提案を押しつぶしてしまったと考えても仕方はない。しかし、それは大きな間違いなのだ。
ウエストミンスター・デザイン・アソシエーツが実現したのは、目を引く建物で、明らかに歴史的な現代建築スタイルに敬意を表する意図で着想したものだ。内部には現代的な蒸溜施設があり、8基のポットスチル、7つの倉庫、そして玄関ホールにはストラスミルから移送した蒸気機関を保存している。
見本となる可能性を秘めた蒸溜所、複数の建築の賞を獲得してもおかしくない建築、審美的にトレンドの一部といった評価はほぼ間違いなく後付けだ。
もっと大きなもののための建築
細部への配慮は、蒸溜酒のデザインにも拡大適用された。ブレンドの供給において、この場合はもともとはJ&B レアのため、最近ならディアジオのためということになるが、品質の確保と一貫性のある製品の提供は欠かせない要素だ。
これはある程度までは最終的なブレンドのフレーバープロファイルによって決まるので、私たちは最後から考える。熟成時点での目標は、重みがありナッツの風味がある蒸溜酒で、穀物の香りに支えられているものだ。オスロスクは生産工程中に様々な方法を使ってこれを達成する。
重さとナッツの風味の特徴に先立つものは、スピーディなマッシュ作りに続き、厳しく管理した55時間という短時間の発酵を通して作られる。軽く、フローラルな香りが生まれないようにするためだ。
普通より少し高い発酵温度は、望んだ品質作りを促進する。正しく行えば、最終的なアルコール産出に悪影響を与えることはない。
ウォッシュスチルを素早く沸騰させると、最初の蒸溜で残る固形物の一部にほんの少し「焦げ」ができる。この一部がスピリットスチルまで運ばれ、ここでもトーストした穀物のようなフレーバーを最大化する。結果としてできたものは、しばしば「焦げとナッツの風味」と表現される。だから完成品を手にするには熟成が必要不可欠だ。
オスロスクは普通リフィルのトーストしたカスクで寝かせる。ここではナッツの風味の特徴を明確にしながらも、より甘いハニーやバニラの香りを加えることに重点が置かれる。この熟成ではキツい焦げたフレーバーもある程度抽出され、最終的なウイスキーとのバランスを取る。
捕捉されていないこと
オスロスクは、様々なスペシャルボトリング以外でシングルモルトの形で見られることは滅多にないので、常に革新を続けるSMWSスピリッツチームにとっては、素晴らしい競争相手になっている。
2014年にフレーバープロファイルへのアプローチを導入して以降、蒸溜所コード95は私たちが使っている12のプロファイルのうち7種類にまで登場した。だから、蒸溜酒に重みのある性質が備わっているとしても、私たちは幅広いカスクのタイプを使用することで多様性の創出に成功してきたようだ。

カスク番号95.66: ダリっぽいボデガの風景 例えばペドロ・ヒメネスのカスクから生産されたような、「レーズンとデーツとプルーン、最後にオールスパイスとメース」の香りがする。 カスク番号95.43 : 液体状のよく焼いたチェリータルト レッドワインのチャードカスクから生産され「本当に奇抜なアロマの万華鏡のあとにビーフ・ウェリントン」の香りがする。
カスク番号95.59: スパイスの宇宙 ブランデーのリチャードカスクから生産され「パイナップルとレッドオニオンとハラペーニョのピクルスをトッピングしたピザを提供されたあとにチェリーチェリーなムードになり、スパイスの効いたコスモポリタンを楽しんだ」
カスク番号95.56: ジャマイカ・モヒートかも は、実を言えば本当にジャマイカ・ラムのカスクから生産したもので、SMWSアンバサダーのスティーブン・マコナキーが試飲して閃いた言葉がある。
「これは素晴らしく、過小評価されている1杯だ。息をつく時間が必要で、水を追加すれば確実に落ち着くのに役立つ―だがハイボールとして炭酸水と一緒に飲むのも価値がある」
これまでと同じように、すべてのウイスキーにおいて、これから飲もうとしている蒸溜所について知っていると思うことは忘れてしまうのが健康的な習慣というものだ。グラスには常に驚きが待っているはずだ―それは目的地ではなく旅なのだ。