ザ・ヴォルツより
ファンタスティックな味覚マニア
2017年にロンドンで開催されたセンサリー・シンポジウムのイベントでは、ワクワクするペアリングや舌を喜ばせる魅力的なひと皿が紹介された。ここでは同年の7月、Unfiltered誌の36号で論じられた話題を取り上げる。
撮影:デービッド・パリー
チーズ、コーヒー…海藻?あなたのソサエティのウイスキーに何を合わせることができるか、その答えには驚くばかりだ。 私たちが同好の「味覚マニア」の一団に調査をして、フレーバーの役割、シングルカスク、シングルモルトウイスキーの複雑さに向かう終わりなき旅、そして私たちのユニークなフレーバープロファイルはどんなふうに多様な製品とペアを作れるかを探った理由はそこにある。
そうしたことを心に秘めて、ソサエティは5月10日の夜、ロンドンでセンサリー・シンポジウムを開催した。主催者はSMWSのアンバサダー、ジョン・マックシェインで、70名の味覚マニアが出席した。
イベントの幕開けに、味覚の未来学者モーゲイン・ゲイが、私たちの舌が常に変化しているようすを解説した。
「消費者として、私たちは今、多様な文化、多様な国々からの昔よりもずっと多くの味や食品に接しています。いろいろな飲み物もあります。そして接点を持つことで、知識を探求する気持ちも大きくなっています。流行も変わります。例えば1940年代と50年代には、花の香りに人気が集まりました―だから私たちは高齢のご婦人たちをスミレのチョコレート、バラやタルカムパウダーのような香りと重ね合わせます。でも現在、流行は革、スモーキー、土っぽいフレーバー寄りで、それらは、ウイスキーと共に広まった香り、ウイスキーと重ねられる香りです」

上:マイクを握るSMWSアンバサダー ジョン・マックシェイン氏

上:モーゲイン・ゲイ博士
モーゲインによれば、ウイスキーがフレーバーの万華鏡を探るのに理想的な場所である1つの理由はそこだ。年齢も、飲み物との関連や経験も関係ない。
「ウイスキーの複雑さとは、それが旅であって、先へ進むほど理解が深まるという意味です。同じ基本的な材料でありながら、必ず味は違い、すべての舌に特別な何かを提供する、複雑なフレーバープロファイルを持っています」
アフィナー(ソムリエと同義のチーズの専門職)のネッド・パーマーは、参加者にランカシャーの牛乳から作ったチーズと、スパイシー&スイートのフレーバープロファイルからカスク番号55.43: 果実の木の陰で をペアリングして試食に供した。彼はまたチーズとウイスキーの両方とも、使われる原料は限られているにも関わらず、多様性の魅力があると語った。
「ウイスキーには、大麦麦芽とイースト菌と水しか使われず―カスクのオークも「原料」と言えるかは議論があるでしょうが―チーズの原料は乳と種菌、レンネット(凝乳酵素)、塩だけです。これらのシンプルな原料から信じられないほど複雑なフレーバーの組み合わせと多様性、異なるスタイルができあがるのです。

上:70名のフレーバーパイオニアが参加
「これらのシンプルな原料から信じられないほど複雑なフレーバーの組み合わせと多様性、異なるスタイルができあがるのです。」
フランス人がテロワールと呼ぶ、作る土地が大いに関係しますし、プロセスにおける小さなバリエーションも関係があります。しかし何よりも画一的な仕上がりにならない何かを作り出すのに必要とされるのは忍耐です。チーズの生産もウイスキーの蒸溜も、要はじっくり作り上げることがすべてなのです」
コーヒーの専門家ドゥモ・マセマは自分の専門領域とウイスキー界のフレーバーの広い世界の間に類似点があるのを発見した。
「ウイスキーにおいては比較的新参者なので、ウイスキーの世界にいくつのスタイルがあるのかよく分かっていませんでした。それはコーヒーについて多くの人々が感じていること似ています。違うものを試してみて、同じ農場から収穫されたコーヒーでも毎年異なることがあると理解するまでは分からないものです。そして私たちはそれを活用していきたいのです。


上:コーヒー鑑定士ドゥモ・マセマ氏
多様性があるので、どのウイスキーに対してもぴったりのコーヒーが存在します。柔らかいもの、花の香りが強いものに対してもです。今晩、ここにはディープ、リッチ&ドライフルーツのプロファイルからカスク番号35.185: 恐ろしいほど愉快 があるので、ナチュラルエチオピアン・コーヒーとペアリングしました。しかしピートの香りのウイスキーには、スモーキーで微かに甘いタバコの香りがするスマトラ・コーヒーを試してみてください」
その夜の最後のペアリングには最も興味を掻き立てられた―オイリー&コースタルのフレーバープロファイルから選んだカスク番号93.74: 別々のクラスとアトランティックワカメ(alaria esculenta)の名で知られる収獲した海藻との組み合わせだったのだ。
採食者のリチャード・オズモンドは、採食が地域の自然環境からのフレーバー再発見にどれだけ役立つかを説明した。

上:SMWSファン同士の絆
「どのウイスキーに対してもぴったりのコーヒーが存在します。柔らかいもの、花の香りが強いものに対してもです…ピートの香りのウイスキーには、スモーキーで微かに甘いタバコの香りがするスマトラ・コーヒーを試してみてください」

「ウイスキー蒸溜所 は、フレーバーの最も純粋なエッセンス、各地域のユニークな特徴とそのユニークなプロセスを捉えることが大切です。採食も同じように地元に着目していて、野生の食物を食べることは、固有の大自然の風景を味わうことを意味しています。
ウイスキーのテイスティング、特にSMWSの方法は、ウイスキーに含まれ得る数多く幅広いフレーバーの探索です。それはフレーバーが想起させる記憶や感情、場所に心を開くことでもあります。


フレーバーとアロマが想起させる質に心を傾けることは採食に必要不可欠です。ワクワクする野生の一皿を作り上げる際にも、食べられる植物を特定する際にも必須となります。私たちがまだ十分に探索していない、英国の生垣には心動かされるフレーバーがありますが、それは想像力の欠如のせいだけかもしれません」
どんなに不活発な想像力も、一連の試食と味覚マニアがペアリングに取り組んだ情熱を通じて、完全に刺激を受けたはずだ。ソサエティの旅があなたをどこへ連れていくかは決して分からない…。
常に風味を第一に
ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティでは、ウイスキーがどこで作られたかよりもフレーバーに関心を寄せている。シングルカスク・ウイスキーのユニークな性質のため、地域や蒸溜所名がウイスキーの味を表す最高の指標とは必ずしもならないからだ。それが蒸溜所名よりもボトリングコードの使用を好む理由の1つでもある。そして皆さんが自分のフレーバーの好みに一番合うウイスキーを見つけるのに役立ててほしくて私たちが開発したユニークな12のフレーバープロファイルの裏にある哲学でもあるのだ。
本稿は2017年7月のUnfiltered誌36号が初出であり、職位や情報はすべて初出当時のものである。