型破りのテイスティング
ヤギだって?冗談だろう!
ピグミーゴートピラティスでウイスキーテイスティング…私たちの「型破りの」テイスティングのテーマも遂にやり過ぎてしまったのだろうか?ソサエティのダンカン・ゴーマンが、冒険心旺盛なメンバーを集めてカスクストレングス・ウイスキーと騒々しい動物の一団を混ぜてみたら何が起こるか実験してみたら…
PHOTOS: PETER SANDGROUND

上:ダンカン、友好的なヤギたちの助けを借りて、ソサエティのウイスキーを楽しむ前に体をほぐします
農家の庭に立ち、ソサエティのボトルを手に信頼できる3人のメンバーと雑談を交わしながら、私はウイスキーとこれから私たちを待ち受けていることに何か関係を見つけられるのだろうかと訝っていた。しかしそれが型破りだとしたら、だからこそ試す理由はもっとあると結論づけるに至り、私の疑いの瞬間は葬られた。
有難いことに新しい体験に乗り気の型破りなソサエティのメンバーには事欠かない。今回はビッキー・エリオット、ブレンダン・イネス、イアン・スティールが参加し、仲間であるソサエティのライター、マッズ・シュモールがウイスキー・モルモットの役割を果たしてくれた。ミッションはいつもと違う環境が1杯の評価に与える影響を明らかにすることだ。
その場に落ち着くと、私たちはそれぞれヨガマットを広げ、1杯の瞑想とでもいうものに耽りながら静けさの最後の瞬間を過ごした。その瞑想にどれほどの効果があったかはよくわからない。もうすぐ毛並みのいい友が到着するという期待に、ひきつった笑いをあげてしまったから。「雰囲気とスリルと次に何が起こるのか誰にもわかっていないということが大いに気に入りました。」とビッキーは語った。「私たち全員がこのささやかなウイスキーの実験の中にいたのです!」
衝撃に身構える時が来た。頭の中のドラムを握りしめると、ドアから騒々しいヤギたちが突進してきて、あっという間に私たち全員によじ登ってきた。ピラティス・アティックのジョーがいくつかの動きを教えながら、ヤギが私たちの背中に飛び乗ったり飛び降りたりする中で、私たちの正気を保ってくれた。イアンは言った。「奇妙で、明らかに私の快適ゾーンから外れていました。感覚的に過剰に負荷がかかっているのに、同時に心からクスクス笑いがこみあげてくるんです。中年男がクスクス笑うなんて、滅多にありません。」

上:ソサエティメンバーのヴィッキー・エリオット、おそらく経験するであろう最も予想外のウイスキーペアリングの雰囲気に浸っている
ヤギに触発されたいくつかの動きをどうにかマスターしたあとで、私たちは農場に向かった。そして草ぼうぼうの囲いの中で、その日最初の1杯のきちんとした紹介を受けた。Cask No. 60.30: Summer strawberry scones (夏のストロベリースコーン)は、ハイランドウイスキーの9年物で、エクスバーボン・ホグスヘッドのファーストフィル。
強い柑橘系とアップルパイの香りがした。外に出ることで体験に素晴らしい魅力が付け加えられることがわかった。ビッキーは言う。「農場、動物、空気、湿気、草の香りのする汚れた手と膝が、わくわくする田舎の雰囲気をもたらしてくれました。室内では決して再現できないものです。グラスの中の1杯は美味しく、ヤギは超絶可愛く、周囲は美しい舞台装置でした。
「屋外にいるのが本当に楽しかったんです。ウイスキーを手に自然に囲まれ肌寒い空気の中に座っていて、背中にはヤギというのが、ただただ愉快でした!ウイスキーテイスティングは、笑いと気分の良い楽しさで際立ち、感覚が高まりました。」

上:アイアン・スティール、新しいウイスキーのペアリング仲間と

上:メンバーのブレンダン・イネス
ブレンダンも同意した。「屋外のウイスキーテイスティングを心から楽しみました。その時自分がいる場所の自然光と匂いが、普通ならグラスから感じられないかもしれないことをまったく変えてしまうことがあるのです。最初のドラムは戸外での1杯に完璧だとわかりました。軽くてフルーティでグラスの中に夏がありました!」
ピラティスとウイスキーに精通したところで、2つを混ぜる時が来た。2杯目の Cask No. 122.60: An emulation of jam(ジャムの模倣)を注ぐ。この10年物のスパイシー&スイートはエクスバーボン・バレルのファーストフィルで、アルコール度数は60.4%、確かにパンチが効いている。ブレンダンが付け加える。「私たちが心してかからないと、ウイスキーテイスティングは気取った、内省的なものになりかねません。だからピグミーゴートの楽しい気分は形式ばった『鼻、舌、そしてフィニッシュ』から、うまく気を逸らす要因になりました。この状況は「私はこの1杯が好きなのかそうではないのか」、この1杯から受け取る大切なことは何なのかを寄り道することなく考えさせてくれました。新しいことを新しい友人たちと試す素晴らしい機会でした。それと少しばかりのクスクス笑い!私にとってウイスキーは人と場所がすべてで、今回はどちらにおいても格別でした!」彼はこう続ける。
「こんな体験をすると、どんなウイスキーについても感じ方が変わります。これまでよく知っていると思っているものでも。これまでのバランスが崩れるのです。今回の場合は文字通りで、もったいぶった言い回しを使わず議論できるのに充分なぐらいです。」
ディープでリッチでドライな蹄
可動域と忍耐と味覚を試し、背中には蹄の形の痣をいくつか作ったあと、私たちはその日最後の1杯を注ぎ、しばし狂気についてじっくり考えた。Cask No. 68.103: Sophisticated emulation(優雅な模倣)は、エクスバーボン・ホグスヘッドで12年間熟成させた後、エクスペドロ・ヒメネス・ホグスヘッドのファーストフィルで仕上げた一品で、卓越したディープ、リッチ&ドライフルーツのフレーバーを狙っている。
この体験を総括して、イアンが言う「環境はウイスキー体験に大きな影響を与えます。最高の1杯は、生真面目なテイスティングからは決して生まれず、それに相応しい場所にいて、適切な環境とぴったりの人々と共にいるときに生まれるものです。それは混雑したバーに友人といるときや、丘をハイキングしていて雨に降られ偶然出会ったハイカーと1杯を分かち合うとき、音楽を聴きながら自宅で座っているときかもしれません。あるいはヤギが自分の身体を飛び跳ねているときかもしれません!
私が強調したい部分は一緒にいる仲間です。人間も有蹄類もです。こんなに素敵な仲間と、こんなに奇妙な体験をしたことを私は心から楽しみました。私たち全員が奇妙な体験と素敵な1杯はウマが合うと感じたのではないかと思います。素敵な1杯の記憶が薄れたとしても、この体験はこれから先ずっと忘れないでしょう。
「私たちは誰もが人生にちょっとした「奇妙なこと」を必要としているのです!人はちょっと違うことを一番よく覚えています。自宅に座って昼間のテレビを見ている2023年の夏の午後について語る人は誰もいません。」
