業界関係者
クレイグ・ジョンストン
クレイグ・ジョンストンはウイスキー業界の様々な場所で働いてきた。そのキャリアはグレンキンチー蒸溜所のツアーガイドに始まり、ソサエティのクイーンストリート28番地のバーの奥へ移動し、それからラーク蒸溜所でウイスキー製造に携わるため、タスマニアへ向かった。現在はスコットランドに戻り、ザ・フェイマス・グラウスのマスターブレンダーを務めている。マッズ・シュモールがクレイグに会い、彼のウイスキーの旅について詳しく聞き出した。
「(クリスは)あの仕事の品質と安定性を管理していて、ウイスキーについての考え方を構造的な視点、リーダーシップの視点、私たちの価値観の視点から教えてくれました」
クレイグ・ジョンストンはイースト・ロージアンで育ち、物理学に情熱を燃やしていた。大学で天文物理学を学ぶ傍ら、人前で話す力を向上させたいと願ったクレイグは、週末にグレンキンチー蒸溜所でツアーガイドを務めることになった。ほどなくして、ウイスキーの世界にどっぷりと嵌まったが、その大きな理由は人だった。 「(グレンキンチーの)イザベル、アンドレア、メアリーが、スコッチは人のビジネスだと教えてくれた点で極めて重要な役割を果たしました。ウイスキー業界は、人と人の業界です。私たちは素晴らしい液体を作りますが、その液体を楽しみ、話題にし、共有し、興奮する人々がいなければ、グラスの中の化学物質に過ぎません」
クレイグは最終的にその液体に注目し、業界の製造側に入るが、それが実現する前にソサエティのクイーンストリートにあるメンバールームのバーの奥で働いた。「初めてシングルカスクウイスキーの数百種のボトルが並ぶのを見た時は少しばかり圧倒されて気後れもしましたが、非常にワクワクしました」と彼は語る。「そしてまったく違う世界を見ることになりました。基本的にブランドを起点とした蒸溜所の市場から、フレーバーとシングルカスクを起点にすべてを語る市場へとね」
ラークでの学び
2014年、クレイグはタスマニアへ渡り、ラーク蒸溜所でシングルモルトウイスキーの製造を学ぶ、製造側のキャリアをスタートさせた。 「私はパドルと、400キロの大麦を渡され、お湯が出る蛇口の場所を教えられ、実質的に自分で作り方をまとめてシングルモルトを生み出せと依頼されました。
そこで働く中で、彼はクリス・トムソンに出会った。クリスは現在のラーク蒸溜所のヘッド・ディスティラーで、今年勤続16年を迎えた。「ラークで過ごした8年間の私の悪友で、最近では、ほぼ兄弟と呼んでもいいのがクリス・トムソンです」とクレイグは言う。「(クリスは)あの仕事の品質と安定性を管理していて、ウイスキーについての考え方を構造的な視点、リーダーシップの視点、私たちの価値観の視点から教えてくれました」
こうして学んだことが、現在の製造、ブレンディング、品質に関するクレイグの考え方の大部分を形成し、ザ・フェイマス・グラウスでの彼の仕事の知識と解決法を支えている。 「(タスマニアへ)行ったときは1週間に3日稼働して、1日100リットル生産していたのですが、辞めたときは3つの異なる蒸溜所から年間60万から70万リットルが生産されていました。これを聞けば、ブランドが急激に増産されたことがわかるのではないでしょうか。そして私たちの哲学が正しかったことの一種の証明になるかと思います。しかし7、8年の間にはいくつかの課題に直面しました」製造過程の様々な段階で数多く働いた経験のおかげで、同じような課題が出てきたときに貴重な見解を提示できるようになった。「こうした問題が別な市場でどのように解決されたかを話し合うときに、とてもいい感じのブレインストーミング的な会話が交わされました。ですから製造の観点とブレンディングの観点の両方から間違いなく学びがありました」
官能の旅
業界のブレンディングの側面に興味を持ったきっかけを尋ねられたクレイグは、ソサエティのテイスティングパネル時代に戻って、官能評価に興味を持った瞬間として挙げた。彼はソサエティで6年間働き、テイスティングパネルのパネリストとなり、後には議長も務めた。その機会を彼は「最も誇り高い業績」と呼ぶ。それはまた、彼がウイスキーの官能的な側面に移行するきっかけとなった。「席に座り、ロビン・ラング、チャーリー・マクリーン、エルスペス・マレーから他の人がウイスキーについてどんなことを考えているのか学びました。この人たちが私の考えを形成する上で大きな影響を与えてくれました。ソサエティは私にたくさんの扉を開いてくれたのです。私はバーの両側で本当に信じられないようなことを見てきました!」
「私は(グレンキンチー)蒸溜所時代に物語や市場を語る方法、製品を販売する方法を学びましたが、実際にウイスキーを分析し、驚くほど素晴らしく魅力的な点を探すだけでなく、間違っている点はないか探したり、ウイスキーを形成しているバランスや複雑さを探求するのは初めてでした。その知識を携えて、実際に生産されている蒸溜所を見に行くようになりました。知識が実践されている現場で働くことは、私の官能の旅に非常に大きな影響を与えました」と彼は言う。
ブルックラディで過ごした時間は、これをさらに強めた。「当時、私は彼らの貯蔵庫に出入りして、ジム・マッキュワンとアダム・ハネットに会うようになりました。彼らはいつもグラスを差し出したので、そこで何が起きているのかを学ぶことができました」。
クレイグはラーク蒸溜所へ行ったときに、クリスと協力してテイスティングパネルを設立した。「私たちはシングルカスクの事業からシングルモルトの事業へ移行し、そこでカスクのブレンディングをして、構成の変化を観察しました。異なるウイスキーを加えるときはいつもワクワクしました」とクレイグは言う。
ザ・フェイマス・グラウス
現在、クレイグのブレンディング用作業台は、グラスゴーにあるエドリントン社の有名かつ歴史的な106サンプルルームにある。そこで、2022年、クレイグはザ・フェイマス・グラウスのマスターブレンダーに任命された。スコットランドで最大の販売量、年間4500万本を誇るブレンドウイスキーを作り出すカスクの1つ1つに向けて、クレイグの品質と安定性への集中力は継続されている。
「ここでの典型的な1週間ですが、一般的に数多くのブレンドが作られるので、ここサンプルルームで受け取るのはカスク、特にザ・フェイマス・グラウスになるモルトのカスクです。どのブレンドに使われるカスクも、グレーンも含めて、1つ残らず、注がれる前に品質確認のため香りを嗅ぎます。そしてザ・フェイマス・グラウス・ファイネストのためだけに年間約8万のサンプルについてこれがおこなわれるのです」
日常業務の大部分は、顧客がよく知り愛しているザ・フェイマス・グラウス・ファイネストを継続して供給するため、決められた正しい在庫を十分に確保して将来的に支障が出ないことに集中している。「私たちが十分な在庫を確保していなかったら、ブレンディングのどの部分が危険にさらされることになるでしょうか。そしてその代替となり得る可能性のある在庫が手元にあるでしょうか。日常業務で最も楽しい部分は、こうした課題の解決方法を探すときだと言えるかと思います」
将来的に安定したブレンディングに対する強い圧力もかかっているが、それはブランドにとってどのような意味を持つのだろうか。「自分たちにできることにおいて、大きな可能性を見ています。だから品質を変えることなくカスクを最大限活用する方法、ブレンドにおいて使用するウイスキーのカーボン・フットプリントの低減に着目しています。また在庫をできるだけ効率的に拠点から拠点へ確実に移動させて、タンカーやカスクを減らすと共に、トラック移動の利用も少なくしようとしています」
「私たちが十分な在庫を確保していなかったら、ブレンディングのどの部分が危険にさらされることになるでしょうか。そしてその代替となり得る可能性のある在庫が手元にあるでしょうか。日常業務で最も楽しい部分は、こうした課題の解決方法を探すときだと言えるかと思います」
「私は職場に来て、仲間の活力、前向きさ、ワクワク感からエネルギーをもらうことのない仕事に就いたことがありません。
一周して元の位置へ
いろいろな意味で、彼の官能の旅は一周したようだ。「自分でも本当に驚いているのは気持ちの変化の流れです。初めて来たときは、シングルカスクの1つ1つを見て、どれもがシングルカスクであるかのように対応しました」とクレイグは言う。「品質の観点からは今でも同じようにしているのですが、目的地や原産地といった考え方に対して、ウイスキーをフレーバーとして考え始めるようになったので、最初に考えていたよりも実はたぶんソサエティに似ているのです」 ほかに重要なことは?人―そもそもクレイグがこの業界で働き続けようと思った理由だ。「私は職場に来て、仲間の活力、前向きさ、ワクワク感からエネルギーをもらうことのない仕事に就いたことがありません。それから今でも手書きの手紙を受け取ることがないブランドのために働いた経験もありません。今でもたぶん週に数通は目にしていると思います。差出人住所やEメールアドレスが書かれているときは、実際に時間をかけてグラウスのファンに向けて返信を書くのですが、かなり満足感があります。マスターブレンダーとしては必ずしも必要がないと思われるかもしれませんが、仕事の最も大切な部分の1つなのです」