グレーンに反対して
ソサエティが初めてシングルグレーンウイスキーをボトリングした時には、設立から既に23年が経過していた。それまで無視され正当な評価を受けていなかった物に対する認識を変える出来事だった。SMWSがシングルグレーンを受け入れるようになった経緯について、ジュリアン・ウィレムズが語る。
上記:ソサエティのG1ボトリング
ウイスキーが緑のガラスに注がれ、かつての空瓶を喜びの約束と友情の物語で満たす。カスクの中の心地よいまどろみから目覚め、各々の領域、新しいソサエティのボトル1本1本の中で息づくウイスキーは、麦芽であり、液体の歴史である。各々のウイスキーは、最初に歌うスチルの合唱隊のこだまの核を伝え、シングルカスクの1つ1つが記憶するままの物語を再び語る。
熟成年数がどうであれ、どれだけ長く触れることなく貯蔵されていたとしても、ソサエティのボトルが開封されたら、ウイスキーが新しい環境に馴染むためにグラスに少し時間をあげよう。結局のところ、実際に外の世界を見るのは初めてなのだ。だが間もなく、あなたの鼻と味蕾だけに聞こえるように、再び物語を語り始めるだろう。というわけで、ソサエティは設立40周年を迎えた。
創設初期の日々に戻ると、最初のカスクがレモネードの空瓶に注がれた後、ソサエティのコンセプトがとても急進的だったので、エディンバラから世界中へと噂が広まり、物事が加速された。実際、ソサエティのためにすべてがお膳立てされているようで、カスクストレングスの成功まで楽に進んだ。
このシングルカスクの信念をより多くの人々に広めるのは革新的なことだった。ブレンドが基本だった当時を思えばなおさらだ。しかし、新しい蒸溜所からソサエティの棚へのシングルカスクの喜ばしい到着にもかかわらず、新しさや興奮が当たり前になってしまう時は必ず来る。ソサエティの課題は常にありふれたものからは程遠かったが、ソサエティの創造的な蒸留酒は奇抜な新製品の販売を必要としていた。
古くからのメンバーなら、24番の蒸溜所、それから4番の蒸溜所のウイスキーで作られたウイスキー・リキュールを覚えているかもしれない。現在では誰の口にも合うものではないだろうが、ソサエティの卸売業者は当時、メーカーから大量の在庫を引き受けていたから、問題はないはずだ。それでも決して超えてはいけない線と、踏み外してはならない範囲があるようだった。ソサエティの創設者ピップ・ヒルズはかつてこう語っている。「私たちはグレーンウイスキーのボトリングはしない。漂白剤をボトリングしないのと同じ理由だ」
上記:ソサエティのユアン・キャンベルとリチャード・ゴスランがノースブリティッシュ蒸留所を訪問中
1992年、好奇心の強いメンバーが当時のソサエティのニューズレターに手紙を送った。
拝啓 精神的に問題がなく、完全に素面の状態の私は、この提案によりソサエティを追放されるかもしれないと理解しています。しかしストレートグレーンウイスキーのボトリングを考えたことはありませんか?私はマクドナルド・アンド・ミューアで1度試飲したことがあるだけで、それもずっと前のことです。英国では見かけたことのない、ミズーリのコーンウイスキーのような味がすると思いました。ファイフのどこかで、ストレートグレーンを購入できると聞いたことがあります。熟成されているのかどうかはわかりません。とにかく、違うものであるのは確かです。
編集長の返信にはピップの影響力を感じるかもしれない。
以前のニューズレターに、試しにサンプリングした5種類のシングルグレーンウイスキーに対する、テイスティングパネルの熱意のない反応が記録されています。だから答えはノーです。ソサエティはこうしたもののボトリングはしません。まったくの別物だからです。
そうして2006年になった。その年に何が起こったのか、推測してみたい人はいるだろうか?ニューズレターに「G1」と呼ばれる新製品への言及がなされたのだ。そう、ウイスキーではあるが、違う、大麦麦芽から作られていないし、ポットスチルから生まれたのでもない。狂気の沙汰だ!
慎重過ぎて間違えたのか、このグレーンウイスキー初のカスクには伝統的なSMWSのコードの小分類の番号が振られていない。だから、ここには「.1」の表示がないのだ。単純に「G1」というのは、まるで「繰り返す必要がない」と言っているかのようだと、ソサエティのアンバサダー、オラフ・マイヤーは言う。
「販売当時、多くのメンバーがこの新製品に顔をしかめました。ソサエティはとうとう頭がおかしくなったのかと尋ねる人も多くいました」
最初のシングルグレーンウイスキーの販売にはどうやら時間がかかったようだが、ご推測、あるいはご存知の通り、同様のカスクが多く後に続き、ソサエティのメンバーの中でも受けるに値する評価を得た。モルト一筋の多くのメンバーが、モルト以外のウイスキーのフレーバーの異なる領域の楽しみを発見し、これらのシングルカスク、シングルグレーンウイスキー周辺への関心が少しずつ高まっていった。そして、これは私がソサエティのメンバーになった初期の頃に出た旅だった。G5.10:砂糖とスパイスと素敵なものすべてを初めて口にしたときのことを忘れることができようか。可能性の新たな領域に私の心を開いてくれた、甘くて、シナモンと穏やかなブラウンシュガーとエキゾチックなフルーツのフレーバー。
広がる世界の中で、G6.9:蛙のコーラスに耳を傾けて、G8.16:バター・フィンガー・ファッジ、G7.18:色鮮やかな懐かしいもの、G1.18:魂のためのパジャマといったボトルも、世界中の審査員を喜ばせ、多くのコンテストで最高賞を授与されてソサエティに誇り高い記録を残した。 だからモルトの神に対して不信心な行為を働きはしたが、まだ漂白剤のボトリングはしていないと報告できるのは大いなる喜びだ。私たちがカスクで熟成したジンをボトリングしたのは事実だが、それに対する不満は見ていない―この件については後ほど詳しく話せるかと思う。
話題が出尽くし仕事も終わってみると、あれは型破りということだったのかもしれない。しかし他の人が押しつけたルールを破るとは限らない。自分自身の信条が不必要に冒険や発見の可能性に制限をかける時には、自らそれを破ることもあるのだ。ソサエティがグレーンに反対していたケースが、反対しなくなるまで、そうであったように…。
上記:ジュリアンがインデペンデント・ボトラーズ・チャレンジでソサエティのグレーンウイスキーに対して受賞を受ける