THE STAR DRIVE

Fueling a dream 夢を充填する

ストリートマーケットで珍しい機械と遭遇したピップ・ヒルズは、200年以上前にスコットランドの聖職者が発明したウイスキーを燃料とするエンジン―そして現在はNASAで使用されている―の興味深い物語を探ることになる。

最近のある月曜の夜、私たちはザ・ヴォルツのメンバー・ルームで小さなパーティを開いた。 パーティは私が長年温めていて、昨年になりようやく執筆に着手した本の出版を祝うものだった。本のタイトルは『ザ・スター・ドライブ(The Star Drive)』といい、パーティの中心はテーブルの上に置かれた大きな真鍮の扇風機だった。酒が注がれ、ライトが当てられ、扇風機は回り続けた。説明を加えるべきだろう。

40年ぐらい前、後にスコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティになるものについて考えていた頃、私はロンドンのストリートマーケットで、奇妙な機械が売られているのに出くわした。その機械を買ったのが、この本という結果を生み出す関係の始まりだった。それはスターリングエンジンと呼ばれる熱機関で、熱だけで動くのだ。オイルもガスも蒸気も電気もその他私たちが一般的に物を動かすのに使うものは必要ない。羽根部分はアルコールを燃やした熱で動く―ここではソサエティのウイスキーで。人を涼しくさせるのに使う扇風機の動力を物を燃やして得るというのはちょっと矛盾しているようなのは分かっている。しかし1世紀前のインドでは、唯一の代替手段は紐を引く可哀想な悪魔で、紐は引いても扇風機やパンカ(訳注:天井から吊り下げるタイプの扇風機)の恩恵を受けはしなかった。

エンジンは200年ちょっと前にスコットランド国教会の聖職者が発明した。エンジンについて書かれた有名な本によれば、かなり特殊な目的においてはそこそこの成功をおさめたが、思っていたほどではなかった。そしてその仕組みの正確なところについては謎があった。というか、なぜ動くのかと同じくらいなぜうまく動かないのかが謎だったのだ。エンジンをめぐってマニアのコミュニティができた。目的は理論的にあるべき状態のように効率的に動かすこと、そして実際には非効率とすら呼べない状態になってしまう理由を探ることだった。矛盾があるように聞こえるのは分かっているが、エンジンは矛盾だらけで、それが絶えず関心を持たれる理由の一部なのだ。 エンジンについての本は折にふれて書かれているが、ほとんどが既にそれについて知っている人に向けたもので、知らない人には敬遠されても仕方がないほど専門的だった。私はありとあらゆる本を購入し、次第に専門的知識の奥には、エンジンの開発に尽力した並外れた人間たちの素晴らしい物語があることに気づいた。

そしてNASAも巻き込んで、すべての小さな物語がぴたりと嵌まる大きな物語があることが明白になった。

STIRLING'S STARSHIP ENTERPRISE スターリングの宇宙鑑エンタープライズ号

20 世紀後半、さまざまなエンジンのハイテクな開発があった。太陽光発電、原子力、自力推進等々だが、いずれも別のテクノロジーに取って代わられ、高度に特定された用途の形で保存された。しかし1964年オハイオ州アセンズの聡明なエンジニアがエンジンの仕組みを見抜く閃きを得た。彼は残りの人生を使って、熱効率を電気に転換する方法としてエンジンを完成させるという形で、その閃きをハードウエアとソフトウエアにした。NASAが彼の仕事に関心を持ち、彼の発明をKRUSTY(Kilopower Reactor Using Stirling TechnologY(スターリングテクノロジーを用いたキロパワーリアクター)の略)の一部に発展させるために彼の会社に投資した。 これが小さなゴミ箱程度のサイズで、ウラニウム235を燃焼させる核反応分裂炉だ。8器のスターリングエンジンを備えたジェネレーターの上に座る。その動力は推進力となり乗り物―宇宙船―を太陽系の向こうの闇の中へと誘うのだ。

並外れた代物だが、サイエンスであり、サイエンスフィクションではない。試しに NASA KRUSTYとGoogleで検索すれば、豊富なイラストを目にするだろう。 スターリングエンジンは月面基地や火星基地の動力源として使われることになっている。仕組みを動かすのにウイスキーを使うとは思わないが。

ピップ・ヒルズが書いた『ザ・スター・ドライブ(The Star Drive)』はBirlinn社より出版される。(英国内は送料込みで14.99ポンド)

Unfiltered誌では著者のサイン入りの『ザ・スター・ドライブ』を幸運な会員10名にプレゼントする。抽選はネット上で。応募は件名を「The Star Drive」としてunfiltered@smws.com にメールを送信すれば完了する。締切は2022年2月4日だ。