蒸溜所案内

キャンベルタウンの興隆

かつては「ウイスキオポリス」の名で知られた地域は何十年にもわたり蒸溜所の悲しき不在に苦しんできた。 トム・ブルース―ガーディンが報告するように、1つではなく2つの新事業がキャンベルタウン内外で決定したことが変化のすべてだ。 トムはR&Bディスティラーズ社のチームからマクリハニッシュ蒸溜所の計画について聞き出した。

R&Bディスティラーズ社が2つ目の蒸溜所開設を話題にし始めた時、場所の選択は明白に思えた。 ヒントは社名の中にあった。「R」が2016年設立のアイラ・オブ・ラッセイ蒸溜所の頭文字だとしたら、「B」はボーダーズだったからだ。 ボーダーズは共同創設者のアレスデア・デイがウイスキー製造を長年夢見てきた場所だった。コールドストリームで酒類販売許可を持つ食料品店を経営し、自身でブレンドもした曾祖父のようになりたかったのだ。

代わりに選ばれたのはキャンベルタウンで、アレスデアのビジネス・パートナー、ビル・ドビーが地域とつながりを持っていたおかげだった。 ビルの話はこうだ。「ロックダウン期間中、R&Bで広報担当責任者を務める息子のウイリアムが言ったのです。『キャンベルタウンでの蒸溜所設立を検討してはどうだろうか。考えてみたら母方の一族の出身地はそこなんだから』とね。

賛成だが、急いで話を進めるかどうかは確信が持てないと私が答えると、息子はこう言いました。『ラッセイの機が熟するまで10年かかったんだから、キャンベルタウンにはもう10年かかるだろう』と」

それで納得し、またアレスデアもそのアイデアを気に入ったが、1つ条件をつけた―ラッセイで学んだことを基にした、農場からボトルまで一貫生産の蒸溜所の建設だ。 「私たちはラッセイで3年間、少量の大麦を育てたのですが、本当に真剣に取り組みました。 それが農場を購入して、蒸溜所を建設し、自分たちの大麦を蒸溜しようと決意した理由なのです」 マル・オブ・キンタイアの大麦でうまくいくことは分かっていた。同地のとある農場がアイラ・オブ・ラッセイ蒸溜所で使う大麦を既に供給していたからだ。

2019年のキャンベルタウン乳製品製造所の残念な閉鎖は、いくつかの酪農場が売却されることを意味していた。 昨年11月R&B蒸溜所は街から北へ数マイル離れた、160エーカーのダーリ農場を購入し、この2月にそこにマクリハニッシュ蒸溜所を建設する計画を発表した。 140年ぶりにキャンベルタウンに新しい蒸溜所ができるニュースは、有名なロンドンバスのように広く報道されたが、その1週間後に2つ目の蒸溜所の発表があった―今度は街の中に作られるダルリアタ蒸溜所だ

「これに関して濁った麦汁が大きな役割を果たしていると思います。スプリングバンクもグレンスコシアも、そのスタイルを生み出す約200年前の(攪拌用)熊手のついた鋳鉄製マッシュタンを使用しているので。濁った麦汁がナッツ風味でオイリーの強い蒸溜酒を作るのではないでしょうか」

Alasdair Day, R&B Distillers

アレスデアは計画は「スプリングバンクにおける新しい実験的蒸溜所」だと言い、こう付け加えている。「他に少なくとも2つの蒸溜所計画を知っています」 事実なら、キャンベルタウンは近いうちに最大8つの蒸溜所を抱えることになるかもしれない。 街にポットスチルが密集し、ウイスキー富豪が大勢いた「ウイスキオポリス」の時代への回帰とは言えないかもしれないが、「スコットランド最長の袋小路」の奥で何かが起きていることは明らかだ。

A83はローモンド湖の中ほどを起点とし、ファイン湖のほぼ全長分を周回して、キンタイア半島を南下し、98マイル離れたキャンベルタウンに入り込む。 グラスゴーからマクリハニッシュへは43分の飛行時間だが、アードロッサンまで運転するとカルマックフェリーが営業している。耳にしたことはあるかもしれないが、冗談ではなく相当な回り道だ。

この孤立感がキャンベルタウンの現在を作り上げているが、天然の良港には明らかに華やかだったビクトリア時代へのつながりを感じさせられる。 「クライド川を行き来する運河専用蒸気船や大型蒸気船の絶頂期でした」とアレスデアは言う。

「そして北アイルランドとの近さから、大麦はそこからも運ばれていました」 17を超える蒸溜所が閉鎖された、1920年代のウイスキーの街としての内部崩壊は、蒸気船の時代が鉄道に取って代わられ、スペイサイドに有利になったことが原因だとアレスデアは考えている。 それと悪名高い「キャンベルタウンの悪臭」もあった。アレスデアによれば蒸溜所が「大麦の乾燥に石炭を使用し、オイリーな刺激臭が生まれて、支持を失ったんです」

マクリハニッシュは、製造に化石燃料を使用しない、実質ゼロ排出蒸溜所を目指しているので、石炭は除外されるが、これはたぶん好都合でもある。 しかし同地のウイスキーには、はっきりとしたオイル臭がある。2月のUnfiltered誌でグレンスコシア蒸溜所の蒸溜マネージャー、イアン・マカリスターは「DNAのせいでもあり、キャンベルタウンの性質でもあります。

大麦麦芽の発酵過程と キャンベルタウンではかなり短い傾向のスチルの形 から生まれるのではないでしょうか」

アレスデアは、マクリハニッシュでも使う予定のスモールスチルについては同意見だが、こう付け加える。「これに関して濁った麦汁が大きな役割を果たしていると思います。スプリングバンクもグレンスコシアも、そのスタイルを生み出す約200年前の(攪拌用)熊手のついた鋳鉄製マッシュタンを使用しているので。 濁った麦汁がナッツ風味でオイリーの強い蒸溜酒を作るのではないでしょうか」 それからマッシュフィルターの設置を考えていて、それについては「常識破りに聞こえるかもしれません」と認めている。またラッセイと同じように、3~5日間の長い発酵期間を想定しているとも話してくれた。

「私たちは持続可能でありたいと考えており、古い酪農場であるため(土壌の)有機物は明らかに非常に多く、...私たちは再生農業を行おうとしています」。

Alasdair Day, R&B Distillers

写真 Dhurrie農場と将来の蒸溜所の完成予想図。

原産地に注意を払い、職人気質で仕事を進めることは、いずれも社風の一部でこれがダーリ農場へ広がっている。 「産出量第一ではありません」とアレスデアは言う。 「サステナブルを望んでいますし、有機栽培(土壌において)は優先順位が高くて、昔ながらの酪農場を目指しています」

また微生物について感情を込めて話す。「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)に挑戦する予定です」 90エーカー余りは大麦栽培に適しているとされ、蒸溜所の需要の3分の1を供給する見込みで、残りは近隣の農場から調達する。

これで可能な限りすべてを 地元で調達することになり、20人を超える雇用創出が期待される。雇用創出は、昨年9月に風力タービン工場が閉鎖されたキャンベルタウンが今、まさに必要としていることだ。

ウイスキーがその空洞を埋める一助となるかもしれない? マクリハニッシュはスタウニングを建設したデンマークの建築家を任命し、年末までに最終計画申請書類を用意する計画だ。この通りに進めば2025年に蒸溜が開始されることになる。

「キャンベルタウンと地元コミュニティに歓迎されて本当に勇気づけられました」とアレスデアは言う。同じことはスプリングバンクとグレンスコシアにも言える。 イアン・マカリスターは最近のキャンベルタウンのウイスキーブームに興奮している。

「夢のようで、実に素晴らしい、願わくば末永く続きますように」